

(承前)
みすず書房のシング「アラン島」(栩木伸明訳)は、現代の訳になっていて、ずいぶん、読みやすくなっています。
訳者あとがきによれば、「シングのテクストは百年前の紀行文だが、原文に付着した時代の錆をだましだまし、ていねいに磨きをかけてみたら、にわかに輝きを増しはじめ、人物たちがいきいきと躍動しはじめたので、とても驚いた。そして、あれよあれよという間に翻訳ができあがってしまった。」
翻訳者が、興に乗って、訳したものには、石井桃子の「クマのプーさん」が有名ですが、あれよあれよと訳せるなんて、訳者冥利に尽きますね。
そして、「アラン島」は、妖精のこと、あるいは、島民が詠う詩のこと、紀行文として、ずいぶん楽しいものです。
≪「白馬」
わが馬はいまや白馬となりにけり
ところが昔は栗毛の馬で
夜に昼を継いで
駆けるのが得意
大喜びでパッカパカ。
でっかい旅を数々こなし
その半分さえ語り尽せぬ。
なにしろアダムが楽園を
追われたその日に乗っていたのがこの馬。
バビロンの平野では
金盃競って全速力。
その明くる日は狩りに出た。
背にまたがるは大ハンニバル。
そうかとおもえば狐を追って
野を駆けていたことだってある。
ナブカドネザルが牡牛のすがたで
草を食べてた時分の話。
(これにひきつづいて、馬はノアの箱舟に乗りこみ、モーゼがその背にまたがって紅海を越える。・・・・・・)≫(栩木伸明訳)
加えて、みすず書房の「アラン島」には、12枚の絵がついています。これは、J.M.イェーツの弟のJ.B.イェーツが描いたもので、「アラン島」の雰囲気に近づくには、ぴったりのものです。もともと、イェーツも画家の父を持ち、J.M.イェーツ自身も、画を描いていたといいます。
☆写真は、スイス ニヨンのローマ時代の遺跡。かの「白馬」はここまで来たでしょうか?

