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薤露行(かいろこう)

        ビアズリーj
(「本の隅々まで」から続き)
(承前)
 漱石は、マロリーの「アーサー王物語」の一部とテニスンの国王牧歌という詩のイメージから「薤露行(かいろこう)」という作品を書きます。とはいえ、作品の冒頭、「マロリーが面白いからマロリーを紹介しようと云うのではない。その積りで読まれんことを希望する」とし、「実を云うとマロリーの写したランスロットは或る点に於て車夫の如く、ギネヴィアは車夫の情婦の様な感じがある。この一点だけでも書き直す必要があると思う。」・・・批判的精神に満ちた冒頭です。うーん、ランスロットを車夫と思ったことはないなぁ。

 元の「アーサー王物語」が、詩的な要素より、事件や関係を追って行くことに重きを置いているのに比べ、「薤露行(かいろこう)」は、かなり詩的な表現があり、絵画的なアーサー王物語になっていると思います。

 エレイン姫がランスロットを見染めるシーンでも、マロリーのアーサー王物語では、
≪・・・その時までずっと感嘆のまなざしで、ラーンスロット卿を見つめていた。・・・≫
と、そっけないのに、「薤露行(かいろこう)」はこうです。
≪・・・女は尺に足らぬ紅絹(もみ)の衝立に、花よりも美しき顔を隠す。常に勝る豊頬(ほうきょう)の色は、湧く血潮の疾く流るるか、あざやかなる絹のたすけか。ただ隠しかねたる鬢(びん)の毛の肩に乱れて、頭には白き薔薇を輪に貫ぬきて三輪さしたり。・・・≫
 おお、美しい乙女ではありませんか。

 ところが、漱石のエレーンが言葉を発すると、急に気位の高い貴婦人になってしまいます。
≪・・「紅に人のまことはあれ。耻ずかしの肩袖を、乞われぬに参らする。兜に捲いて勝負せよとの願いなり」・・・・・「女の贈り物を受けぬ君は騎士か」と、エレーンは訴うる如くに下よりランスロットの顔を覗く。・・・≫
 のぞきこんで訴えるところは、可愛いのですが、どうも口調が・・・
 その点、マロリーの方は、「それは、わたしの緋色の肩袖でございます。大きな真珠を縫いつけてございます。」
(「シャルロット姫」に続く)

*「アーサー王物語」 トマス・マロリー著 オーブリー・ビアズリー挿絵 井村君江訳 筑摩書房
*「アーサー王と円卓の騎士」 シドニー・ラニア編 石井正之助訳 N.C.ワイエス画 福音館古典シリーズ
*「薤露行(かいろこう)」は、「倫敦塔・幻影の盾」(新潮社文庫)などに入っています。

☆写真は、筑摩書房「アーサー王物語」Ⅰ~Ⅴ ビアズリーの挿絵やカットが、ふんだんに使われている、とても綺麗な装幀の本です。
本の装幀」の所でも書きましたが、漱石は、このビアズリー挿絵本みたいな本を造りたかったのでしょうね。

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