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幻影の盾(まぼろしのたて)

       リリスj
(「シャルロット姫」から続き)
(承前)
 夏目漱石の「薤露行(かいろこう)」「幻影の盾(まぼろしのたて)」は、どちらもアーサー王伝説を基に書かれた作品ですが、「薤露行」の冒頭は、批判的精神に満ちた自信満々の冒頭なのに、この「幻影の盾」は打ってかわって、謙虚な書きだし。(どちらも1905年)
≪・・・浅学にて古代騎士の状況に通ぜず、従って叙事妥当を欠き、描景真相を失するところ多かろう、読者の誨(おしえ)を待つ。≫

 「夏目漱石の美術世界展」では、ダンテ・ガブリエル・ロセッティの「リリス」(写真、右、図録掲載)が来ていました。ラファエル前派集団の画家たちは、当時、同じモチーフで、何枚か描いていたので、写真中の絵ハガキの「リリス」もあります。バーン・ジョーンズ「いばらひめ」のときも、同じテーマで少々違っていました。

 それで、「リリス」が書かれている漱石の小説は?と解説などを見ましたが、結局「リリス」本体が直接書かれているわけでなく、盾の中央にゴーゴン・メジューサに似た夜叉の顔が鋳出されていて、それがウィリアムの思う長い髪のクララと重なり・・・・・

≪盾の真中(まんなか)が五寸ばかりの円を描いて浮き上る。これには怖ろしき夜叉(やしゃ)の顔が隙間もなく鋳出されている。その顔は長しえに天と地と中間にある人とを呪う。右から盾を見るときは右に向って呪い、左から盾を覗くときは左に向って呪い、正面から盾に対う(むかう)敵には固より(もとより)正面を見て呪う。ある時は盾の裏にかくるる持主をさえ呪いはせぬかと思わるる程怖しい。頭(かしら)の毛は春夏秋冬の風に一度に吹かれた様に残りなく逆立っている。しかもその一本一本の末は丸く平たい蛇の頭なってその裂け目から消えんとしては燃ゆる如き舌を出している。毛と云う毛は悉く蛇で、その蛇は悉く首を擡げて舌を吐いて縺るるのも、捻じ合うのも、攀じあがるのも、にじり出るのも見らるる。五寸の円の内部に獰悪なる夜叉の顔を辛うじて残して、額際から顔の左右を残なく填めて自然(じねん)に円の輪郭を形ちづくっているのはこの毛髪の蛇、蛇の毛髪である。遠き昔しのゴーゴンとはこれであろうかと思わるる位だ。ゴーゴンを見る者は石に化すとは当時の諺であるが、この盾を熟視する者は何人(なんびと)もその諺のあながちならぬを覚るであろう。≫

・・・・というゴーゴン・メジューサの絵(アンソニー・フレデリック・サンドゥズ画)が、写真左端に写っているのですが、目が怖いのでバラで隠しました。   (「リリス」に続く)

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