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小高い丘の上の百話

ベリンツォーナjj

「デカメロン」(河島英昭訳 講談社文芸文庫)(平川祐弘訳 河出文庫)
(承前)
 「デカメロン」を再読したのは、第一目の序の話がペストの話だったからでした。今年読んだペスト関連の話の中では、短編であることもあって。一番、メリハリがきいています。

 ペスト関連の小説には、これは現代かと思わせる箇所が、多々ありましたが、この14世紀の話にも然り。
≪・・・・大酒を飲み、逸楽に耽り、歌を唄い、面白半分に出歩いて、ありとあらゆる欲望をみたし、何事が起こっても笑い飛ばして、万事を冷やかすことにこそ、あの悪疫に対するもっとも確かな治療法があると広言する者もいた。≫
 
 さて、イタリアの美しい町々にあってもひときわ秀でた花の都フィオレンツァ(フィレンツェ)辺り一面に死臭と病人の悪臭とが漂い、薬剤の臭気が漲るがゆえに、≪おのれの手に、ある者は、花を、ある者は匂いのよい草を、またある者はさまざまな香料を握って、それらをしばしば鼻先に押し付け、その香気で脳を安めるのが最良の方策であると考えた。≫・・・・というような悲惨な状況下であるにもかかわらず、そこを離れ、男3人、女7人 10人が 退屈しのぎに 出かけたところで、10日間一人1話ずつ、合計100話のお話をするのが、この「デカメロン」という背景。その悲惨さの極みみたいな地から、打って変わって、やってきたのは小高い丘の上。
≪丘の頂には一つの館があって、美しい大きな中庭を取り囲み、回廊をまわして、数多くの広間や個室はそれぞれに瀟洒をきわめ、飾りつけの絵画はいずれも見惚れてしまうものばかりで、周囲には芝生がひろがり、素晴らしい庭園が幾重にも連なって、井戸には清らかな水が湛えられ、地下室には貴重な美酒がいくらでも蓄えられていた。もっともこればかりは貞淑な女性たちのためよりも、美味な酒には目のない男性たちにこそふさわしいmのではあったが。そして館のなかは掃き浄められ、各部屋にベッドが整えられ、至るところに季節の花々が飾られ、藺草が敷きつめられていたので、到着した一行の喜びは一入だった。≫

 ペスト禍の災難のどん底と、その対極のような優雅な世界のコントラスト。
 つまり、デカメロンの中の100話の話は、この優美と卑俗の絶妙なバランスゆえに、人心を捉え、100もある話にひきづりこんでいったのだと思うのです。
 
  「デカメロン」に影響を受けて、イギリスのチョーサーが「カンタベリー物語 上・中・下」(桝井迪夫訳 岩波文庫)を書きますが、これも以前読んだとき、その挿絵とともに、ずいぶん楽しんだことを思い出しました。ここにも聖と俗がたっぷり。
 挿絵は、ラファエル前派のバーン・ジョーンズ。
 そういえば、その後、カンタベリーに行ったこともあるなぁ。また、読み返さなくては・・・

☆写真は、スイス イタリア語圏 ベリンツォーナ

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