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みんなみすべくきたすべく

ある春のことだった

さくらんぼ10
 「水晶 他三篇 石さまざま」(シュティフター作 手塚富雄・藤村宏訳 岩波文庫)
(承前)
 つい、シュティフターの風景描写に惹かれて、「みかげ石」に書かれたペスト禍のことを書くのが後回しになりました。

 おじいさんが少年と歩きながら、周りの山々、森を指し示し、話します。

「あの森や村ではな、むかし不思議な出来事がおこって、たいへんなわざわいがふりかかったことがあったのじゃ。」と始めます。
おじいさんのおじいさんが話してくれたこととして、
≪ある春のことだった。木々がやっと芽を吹き出して花が散るか散らないうちに、ひどい病気がこのあたり一帯を襲った。お前がいま見た村々や、山のかげになって見えなかった村々や、お前が名前をあげたあの森の中でさえも、その病気が出た。ずっと前から遠方で、はやっていて、人の命を信じられないほどたくさん奪ったのだが、突然、わしらのところにもやって来たのだ。どうして来たのかわからない。人間がもって来たのか、おだやかな春風にのって来たのか、それとも風や雨雲に運ばれて来たのか、ともかくやって来た。そしてこのあたり一帯にすっかり広がった。道の上にまだ残っている散った白い花の上を、死人が運ばれていった。窓の外に若葉の見える小部屋の中には、病人がねていて、誰かが看護していたが、その看護している人ももう病気にかかっているのだった。この疫病はペストという名前だった。丈夫な人が5,6時間もするとコロリと死んでしまう。病気が治っても、すっかり丈夫というわけにはいかず、ぶらぶらして、仕事をすることができなかった。・・・・≫

≪・・・・間もなく、お墓に埋めることができなくなって、野原に大きな穴を掘り、死人をその中にいれて土をかけた。煙のあがらなくなった家や、餌をやるのを忘れたために家畜が唸っている家が方々にあった。牛なども牧場から小舎にいれてやる人がないので、野生にかえって方々うろつき廻っているのがいた。子どもたちはもう親を愛さなくなり、親も子どもを愛さなくなった。人々は、ただ死人を穴の中に投げ込んで立ち去るのだった。赤い桜んぼの実が熟しても、誰一人として桜んぼのことなどを考えるものはなく、木からとろうとするもののなかった。・・・・・・・≫

 この「みかげ石」だけでなく、他のペスト禍を扱った作品➡➡  ➡➡に共通しているのは、読んでいると、一体いつの時代のこと?現代のこと?と、重なるシーンの多いこと。
 疫病は、侮ってはいけないと、どれも伝えてくれています。

☆写真は、4月下旬のご近所桜んぼ、次の週には、収穫され、もうなかった(涙)

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