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みんなみすべくきたすべく

みかげ石

谷あい12
(承前)
シュティフター「水晶 他三篇 石さまざま」(シュティフター作 手塚富雄・藤村宏訳 岩波文庫)の中の一篇「みかげ石」は、少年と祖父が森に出かけ、過去のペスト禍にまつわる話を祖父が少年に聞かせる話です。

ペスト禍で孤児になった男の子と森で瀕死の状態だった女の子の話は、小さい話の中のさらに小さいエピソードとして忘れられないものです。

≪「・・・ちょうど、この真正面、おてんと様の沈むところあたりなんだか、その辺までいくと、はじめて森らしい森になるんだよ。そこには、もみやとうひがはえている。はんのきや、かえでや、ぶなやその他の木がはえている。まるで王様みたいにな。その間には家来みたいに、灌木や、さまざまな草や花やいちごやこけなどが、おしあいへしあいしている。四方の山々からは、泉が流れ落ち、さらさらとささやきながら、昔ながらの話を物語っている。軽いガラスのようなさざれ石の上をこえて、いくつかの小川となり、広い平野へと流れていく。空では鳥がなき、白い雲が輝き、雨が降りそそぐ。夜になるとお月さんがすべてのものを照らすので、まるで銀の糸で織った網目模様の布みたいになる。この森の中には、黒い湖が一つある。その後には、灰色の岸壁があって、影を水に映している。その側には黒い木々がはえていて水を見おろしている。前の方は、えぞいちごやきいちごが一面に繁っているので、そこはとても通り抜けることができない。岸壁のそばには、倒れた木々が白い肌を見せながらごちゃごちゃにいり乱れている。きいちごの繁みの中から、雷にうたれた木の白い幹がそそり立って湖を見おろしている。大きな灰色の石が何百年もの昔からあたりにころがっている。鳥やけだものたちが、水をのむために、この湖にやってくるんだよ。」≫

情景が目に浮かびます。昨日のフーゴ・フォン・ホーフマンスター➡➡の描写したところと似た風景ではありますが、シュティフターのこの箇所には、視覚、嗅覚、聴覚、味覚(いちごの味)、触覚(繁みを通り抜けることができない)の表現が、そろっています。また、「おしあいへしあい」「さらさらとささやきながら」などという擬人化、あるいは「何百年も昔から」と、時空を超えた想像力も刺激しています。

・・・・・と、シュティフターの自然描写に触れていると、他のシュティフターの作品を読みたい気持ちが溢れます。特に、今年に入って、樹木の本やポターにまつわる自然の話に触れていたので、かつて、シュティフターを夢中になって読んでいた頃より、さらに楽しめる気がしてなりません。(続く)
☆写真は、スイス ロシュ・ド・ネー

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