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みんなみすべくきたすべく

フィンチリイの行進

ホガース
「エリア随筆抄」(1823)(チャールズ・ラム 山内義雄訳 みすず書房)
(承前)
≪ホガースは「フィンチリの行進」の中で、パイ売りをにたにた笑っている少年掃除夫を、すでに画材に捕えているのである――≫
 ということで弥次馬の嘲笑とか毒舌を画材にしたホガースを「煙突掃除人の讃」で引き合いに出しています。
が、しかし、そのエッチング&グレーヴィングをまじまじと見ても、煙突掃除人の男の子が、パイ売りをにたにた笑って見てはいないのです。かがみこんでミルクを失敬しようとしている兵士を見て、笑っている(媚びている)ように見えます。上記写真、パイ売りの右下で、ブラシを持っている男の子。

 ところが、チャールズ・ラムをこよなく愛したという庄野潤三の「陽気なクラウン・オフィス・ロウ」(講談社文芸文庫)*を読むと、こんな見方でした。

≪・・・・乳しぼりの女に接吻するのがいるかと思えば、その隙にかがみ込んでミルクを頂戴しようとする抜け目のない兵士がいる。それを見て嬉しそうに笑っているのは、街で行き会うのが好きだとエリアが言った子供の煙突掃除人だ。—---その「煙突掃除人の讃」に「フィンチレーへの進軍」が出て来て、煙突掃除人の子どもがパイ売りの男を見て笑っているとある。自分に話しかけてる兵士がパイを取ろうとしているのに気が附いていないから、これもおかしみを誘う光景だが、少年の背後に立つパイ売りには見えない筈。煙突掃除人の子供を喜ばせる対象としては乳しぼりの女よりもパイ売りの男の方が似合うというふうにラムは考えたのかもしれない。・・・≫と、ラムが「エリア随筆抄」で表現したことを深く読み取っているように思います。

 カ・リ・リ・ロとしては、パイを盗ってる兵士はあくまで自分の為で、それが証拠に、パイ売りに「ほら、こいつミルク盗ってる」と指さし、パイ売りを「ぎょ!」とさせている間に、自分はパイを盗っている・・・・。そして、煙突掃除人の男の子は、自分の帽子(煤と灰とで真っ黒)にも、自分のミルクを入れてと差し出しているように見えます。黒い帽子と白いミルク、ここにも皮肉があるような気がするし・・・

 また、本文にあるササフラスという甘い木が主成分となったサループという煙突掃除人の好物である混合飲料水が、一種のお茶で、その臭みをミルクと砂糖を入れて和らげるというものに チャールズ・ラムは言及します。

≪あなたの口に合うかどうか≫とか≪私は、ついぞおまだ一度も私自身の唇をつけてみる勇気が持てないのだが――前もって鼻にプンとくる匂い…≫≪ササフラスのの不快な臭気≫・・・このサループは、一文無しの煙突掃除人の好物なのである。 としています。  

 そのサループなる飲み物の話は、チャールズ・ラムが、転んだ話になり、それを煙突掃除人の子が見て笑った話になり、煤で汚れた顔から見えた白い歯の話になり、店外付きベッドの白いシーツの上で寝ていた煙突掃除人の子の白い歯は高貴な生まれであり・・・と次々つながっていくところを見ると、 ラムとしては、黒と白、貧しいと高貴を対比した文章にしたかったんだろうと考えるのです。
                                                          
 ま、片や、イギリス18世紀の文筆家、片や日本の芥川賞作家ということで、カ・リ・リ・ロの見方など他愛ないものにすぎませんが、一枚の絵で楽しませてもらいました。。」

 そして、「チャールズ・ラム伝」(福原麟太郎 講談社文芸文庫)には、ラムが、エリア随筆の他の文章にも、また評論でもホガースについて書いている(「ホガースの天才と性格について」)ことに言及し、ラムの美術鑑賞の力量についても、書いています。(続く)

*「陽気なクラウン・オフィス・ロウ」(1984)(庄野潤三  講談社文芸文庫)は、庄野氏がご夫婦で、チャールズ・ラムの足跡を訪)ねられたときのロンドン日記。
**「チャールズ・ラム伝」(1988)(福原麟太郎 講談社文芸文庫)

☆写真は、「フィンチレーへの進軍」(1750-51)の一部分。(「ホガースの銅版画―英国の世相と風刺ー」「森洋子編著 岩崎美術社)

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