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みんなみすべくきたすべく

五足の靴

平安神宮j
「五足の靴」(五人づれ著 岩波文庫) 
薄っぺらい文庫本です。新聞連載だった紀行文なので、一つ一つの文も短く、すぐに読めるはずでした。

 五足の靴を履く面々は、与謝野寛 北原白秋 平野萬里 太田正雄(木下杢太郎) 吉井勇という雑誌「明星」に集う若き詩人たちです。三十代半ばの与謝野以外は、二十代前半の学生か、学生あがりの青年たちの集団が明治40年の盛夏に長崎・平戸・島原・天草・阿蘇・柳川に出向き、交代で匿名執筆した紀行文が「五足の靴」です。

 この「匿名」の紀行文・・・・というのが、読み手の心を惑わします。
 与謝野寛がK生、北原白秋がH生、平野萬里がB生、太田正雄(木下杢太郎)がM生、吉井勇がI生。
 どの文も、少しづつ、個性があって、この文は誰が書いたんだろう?と考えだすと、謎解きをしたくなります。

 一人 自然描写を生き生きと描く人がいて、他のと、ちょっと趣を異にしていうような気がするのですが、読み違いかもしれません。
≪朝、汽車は千代の松原を走る。松緑にして砂白き古来の絶景である。この中に箱崎八幡香椎の宮がある。潮風の荒きに圧され、松はみな低く地を這う。砂は黄味を帯びた白色の石英質である。投げられた松の影が虎斑を作る中を、めまぐるおしく走ってゆく。向こうに日を受けた日蓮の銅像の大頭がきらきらと輝き、博多湾を睨んでいる。・・・・≫(四)砂丘

≪・・・風の故かさほど蒸熱くもない。小さな船は常さえ荒れるという千々岩灘をこの荒れの日に横ぎろうとする。行くに従って海はいよいよ荒る。白い毛を頭に被いた怪物が海を埋め、己れ小癪と船をめがけて八方からひしひしと攻めかかる。船は思うがままに弄れる。思えば船も怪物である。鯨の一種である、頭もある、尾もある、腹も背もある、そう思えば眼もある、鰯の代りに石炭を吞み、潮の代りに烟を吐く。ひらひらと弄れながらも驀(まっしぐら)に進んでゆく。風がざざざあと鳴ると波がどどどおと答える。空には灰色の雲がまだらに散って荒れ狂う怪物に怪物に応援している。何しろ痛い(ひどい)暴風(しけ)だ。・・・・≫(十)荒れの日

≪柳河は水の国だ,町の中も横も裏も四方に幅四五間の川が流れて居る。それに真菰が青々と伸びている。台湾藻の花が薄紫に咲く、紅白の蓮も咲く、河骨も咲く、その中を船が通る、四手綱の大きなのが、所々に入れられる。颯と夕立が過ぎた後などはまるで画のようだ。・・・・・≫(二十三)柳河
(続く)
☆写真は、河骨 (ただし、季節は初夏、平安神宮)

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