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みんなみすべくきたすべく

海を見つめることによってすべてを忘れ

鳥j
(承前)
 「風車小屋だより」(ドーデ―作 桜田佐訳 岩波文庫)
 この短篇集には、自然描写が生き生きと描かれているものも多く、また、自然の中で感じる喜びを伝えてくれるものもあります。
「サンギネールの灯台」
≪・・・・ミストラルやトラモンターヌのあまり強くない時は、かもめ、いそひよどり、つばめなどを友に、波の面にすれすれな二つの間へ行ってすわる。そうして、海を見つめることによってすべてを忘れ、快く身を打たれたようになって、ほとんど終日ここで過ごすのであった。諸君もおそらく御存じであろう。あの魂の美しい酔い心地を。考えるのでもない、夢を見るのでもない。身も心も我を逃れ出で、飛び去り、散り失せる、我身は、水に潜るかもめ、陽を受けて二つの波頭の間に漂う水のあわ、遠ざかり行くあの郵便船の白い煙、赤い帆かけたさんご船である。この波の珠と砕け、かの雲の一片(ひとひら)と流れる。すべてありとあらゆる我ならぬものに・・・・ああ、この島に半睡(まどろみ)と忘我の快い時をいかばかり過ごしたことか!・・・・   風の荒れる日は、みぎわには居られないから、隔離所の中庭にこもった。;;や野生のにがよもぎの豊かに薫る、ささやかな寂しい庭であった。ここで、古い壁によりかかって、私は静かに、荒廃と悲哀のほのかな香りの身に襲いかかるにまかせた。その香りは、古代の墓地のように口の大きく開いた石造りの小屋の中を、陽の光とともに漂っていた。時々、何かとびらをたたく、草の中を軽く跳る・・・それは風を避けて草をは食みにくる一匹のやぎであった。私を見て驚いて立ちどまる。そうして、根が生えたように、目の前にじっと立っている。活発な様子。角を高く立て、あどけない目で私をながめながら・・・    五時ごろになると、番人のメガフォーンが夕食に呼ぶ。そこで私は、海にのぞむ急な斜面に生い茂った木立の細道をたどる。そうして、登るにつれて広がるように見える。水と光の無限に広い水平線を一足ごとに振り返りつつ、ゆっくりと灯台の方へ帰るのである。≫*まんねんこう・・・まんねんろう。ローズマリー。

 目に見えるような描写は、読んでいる者をその汀に連れて行き、見えるもの、聞こえるもの、香るものを身近に感じさせてくれます。特に、最後の一行は、自然の雄大さと、心の穏やかさが表現されています。(続く)
☆写真は、芦屋川河口。

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