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その夜の宿

小鬼12j
(承前)
「マーカイム・壜の小鬼 他五篇)」(スティーヴンソン作 高松雄一・高松禎子訳)の巻頭に入っているのが、「その夜の宿-フランソワ・ヴィヨン物語ー」です。
 詩人フランソワ・ヴィヨンのことは知りませんでした。
 ヴィヨンは詩人であり、パリ大学の修士号を持つ中世末期の人ですが、かなりの無法者で、スティーヴンソンの描いたのは、史実からヒントを得たフィクションです。

≪時は、1456年11月の末である。≫から始まるこの作品は、ヴィヨンを含めた悪党たちのもめごとで殺人沙汰が起り、各人がその場から離れ、行く当てのないヴィヨンは、見知らぬ老人の家に…
 盗みを働いてその日その日の命をつなぐ若者と、主君のために命を戦いぬいてきた老人。その二人の問答、対話が、話の後半です。

 解説によると、1456年11月末という設定には、史実と関わりがあるとしています。
――この一か月後のクリスマスの夜、悪党仲間と示し合わせて神学校に忍び込み、大金を盗み出してパリから姿を消し、その後何年かはパリに戻れなかった――とありスティーヴンソンは「その夜の宿」の中で、ヴィヨンの惨めな未来を予知する問答を表現したからです。

 家に悪党を招き入れた老人は、こう諭します。
≪・・・あんたは小さな欲望に心を煩わせるが、唯一の大きな欲求を忘れている。最後の審判の日に虫歯の治療をする人のようなものだ。名誉や、愛や、信頼のようなものは食い物や酒よりも高貴なだけでない。なお、望むべきもの、これなくしてはさらにつらい思いをするものだと私は思う。できるだけわかりやすく話しているつもりだ。あんたは口腹の欲を満たすのに夢中で、心のなかのもう一つの欲求を忘れているのではないかな。だから生きる喜びを損ない、いつも惨めな思いをすることになるのでは?≫

 が、しかし、ヴィヨンは苛立って、叫び、反発し・・・1456年のクリスマスの夜・・・ということになるのです。(続く)
☆写真は、スイス チューリッヒ 駅前

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