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みんなみすべくきたすべく

身中つかるゝまでの快さ

 ライラックj
(承前)
 ムシュウ・ド・ノワイユ夫人の詩とは?と調べると、インターネットのおかげで、糸口が見つかりました。
 ただ、外国の名前の表記は、微妙に異なり、永井荷風の訳詩集の「ロマンチックの夕」「9月の果樹園」「西斑牙を望み見て」の作者伯爵夫人マチュウ・ド・ノワイユが同一人物なのか、詩を読んでから確認しました。

 林芙美子は、「涼しき隠れ家」という文で、≪「われ小暗きリラの花近く、やさしき橡(とち)の木陰に行けば、見ずや、いかで拒み得べきと、わが魂はささやく如し」なぞ、ノワイユ夫人のような美しい一章が書きたい。≫ というのですが、この随筆に、いつくか引用されるノワイユ夫人の詩は、永井荷風訳の「九月の果樹園」「ロマンチックの夕」の二つの詩からのものでした。 

 ノワイユ夫人「ロマンチックの夕」(永井荷風訳)は、
≪夏よ久しかりけり。われ夏の恵み受けじといどみしが、今宵は遂に打ち負けて、身中つかるゝまでの快さ。≫で、始まります。確かにロマンティックな詩の始まりと言えるし、隠喩が多用された愛情表現の静かな始まりとも言えます。
 が、しかし、日本の夏を知る凡人にとっては、なかなか「夏よ久しかりけり」という優しい言葉は出てこないなぁ・・・「身中つかるゝまでの快さ」などとも。

 ところが、林芙美子は、日本の風土に居て、「涼しき隠れ家」の中で、こういうのです。
≪桃の繁り葉のある、冷え々とした古い井戸のある、私は、夏暑い夜々をまるで子供のように、この涼しさを考える。≫

――そうかぁ。しのぎやすい場所もあるんだ。でも、やっぱり日本の夏の夜は暑い――
(続く) 

*「日本近代随筆選 2大地の声」(千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編 岩波文庫)
*「珊瑚集ー仏蘭西近代抒情詩選」(永井荷風訳 岩波文庫)
☆写真は、4月下旬にご近所で咲いていたリラ(ライラック)の花。いい匂いです。日本では北海道などでたわわに咲くようですが、この辺りでは、少ないです。
 英国にも 「詩集 ライラックの枝のクロウタドリ」(ジェイムズ・リーヴズ詩 エドワード・アーディゾーニ絵 間崎ルリ子訳 こぐま社)があるように、ライラックは涼しいというイメージと重なります。

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