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みんなみすべくきたすべく

貪欲さや悲惨さとの対比

五月の薔薇4j
(承前)
 田舎ものを集めた「モーパッサン短編集Ⅰ」の自然描写は、三冊の中でも、特に美しいものが多いような気がします。多分、田舎暮らしの貪欲さや悲惨さとの対比もあると思います。

 「牧歌」という汽車の中での話は、同郷、同席、空腹、乳・・・
≪太陽は空にあがって、沿岸に火の雨を降りそそいでいる。ころは、五月の終り、気持ちのいいにおいが、あたり一面に飛び舞い、ガラス窓のおりている車室のなかにまで侵入してくる。オレンジの木も、レモンの木も、いまが花ざかりで、その馥郁(ふくいく)たる、甘くて、はげしくて、悩ましい香気を静かな空に発散して、バラの香に混じている。バラは、華麗な庭園といわず、あばら家の戸先といわず、田野といわず、沿線のいたるところに、まるで雑草のように生えているのである。≫
うーん、薫ってきそうです。

 「帰郷」の出だしはこうです。眼に見えるようです。ちょっと、青柳瑞穂訳(新潮文庫)と高山鉄男訳(岩波文庫)を比べてみます。どっちの言葉運びがお好きでしょう?

≪海は小きざみの単調な波で岸壁を打ち、白いちぎれ雲が疾風(はやて)にさらわれて、まるで鳥の群れのように、ひろい青空をすっ飛んでいく。ところが、その村は、海にだらだらとおりる谷あいで、ぬくぬくと日なたぼっこをしているのである。≫(青柳瑞穂訳)

≪海は、単調な波で小刻みに岸壁をたたいている。小さな白い雲が、疾風(はやて)にあおられ、青い空を鳥のように飛んでいく。谷は、海に向かってくだっている。谷間(たにあい)の村は、日をあびてぬくぬくと暖まっていた。≫(高山鉄男訳)(続く)

「モーパッサン短編集 Ⅰ~Ⅲ」(青柳瑞穂:新潮文庫) 

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