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影をなくした男

   足の裏j
 以前、英国のクルックシャンクのことを調べていたら、ドイツのシャミッソー「影をなくした男」の挿絵を描いているとわかりました。その絵の載る本を見ていませんが、岩波文庫の「影をなくした男」(池内紀訳)を読みました。電車用の薄っぺらい文庫本です。エミール・プレートリウスの挿絵がなかなか洒落ていて楽しいです。とはいえ、クルックシャンクの挿絵なら、もっと、人を喰ったような絵になっていたのではないかと思います。

 「影」をなくす代わりに「金貨の出てくる袋」を手に入れるという話です。
 こんな交換話は、≪ゲーテ(1749-1832)「ファウスト」に於ける「魂」≫、≪ディケンズ(1812-1870)「憑かれた男」に於ける「記憶」≫などが思い浮かびますが、このシャミッソー(1781-1838)「影をなくした男」は、初めは友人の子どもに向けて書いたらしいので、ゲーテやディケンズほど深いものではなく、とはいえ、影をなくすことで人生の辛酸をなめることは共通しています。その分、面白おかしく読み進むことができます。 
ファウスト」におけるグレートヒェンの役回りが「影をなくした男」ではミーナだし、
「ファウスト」の悪魔、「憑かれた男」の亡霊が、灰色のマントの男となっています。

 大体、金貨の出る袋だか、後半、唐突な登場の七理靴だとか、子どもたちになじみやすい、魔法の小道具が出てくるのも魅力です。 なにより、結構つらい思いをしているのに、最後は前向きで、シャミッソー自身が植物学者だったこともあって、取って付けたような七理靴の登場に、妙に納得してしまうのです。(続く)

*「影をなくした男」(シャミッソー 池内紀訳 岩波文庫)
*「ファウスト」(ゲーテ作 柴田翔訳 講談社文芸文庫)
*「憑かれた男」 (ディケンズ 藤本隆康訳 あぽろん社)
☆写真は、英国バスコットパーク庭園

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