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時のしずく

クール時計j
(承前)
 カロッサの「幼年時代」ともう一冊、同時期に読んだお医者さんの本「時のしずく」は、精神科医 中井久夫氏のエッセイ集です。あとがきには「回顧的」な文章が多いとあります。論考あり、思い出あり、追悼ありの五部構成です。

 中井氏の精神科医としての専門書やその訳書、あるいはギリシャ詩訳の本を読まなくても、エッセイ集でその人となりに近づけるのは、有難いことです。中でも「秘密結社員みたいに、こっそり」という文は、少年少女のための寄稿文だったようで、よりわかりやすく、説得力のあるものです。

 この文は、
≪私は時々思うのだが、今、学校でいちばん放置され、理解されないのは、知的な好奇心に早く目覚めた人ではないだろうか。・・・≫で始まります。
 そして、「権力欲」という言葉に導いていきます。権力欲の塊の人たちにも聞かせてあげたい話です。
≪ただ、うっかりすると知識欲は権力欲の手段になりさがってしまう。権力欲はサルやその他の動物にも立派にある。知識欲は動物にないとはいわないけれど、人間の人間であるもとはこちらだろう。ただ、新しいだけ知識欲はひ弱く、権力欲は古いだけしぶとい。基本的な三大欲望という睡眠欲、食欲、性欲だって、権力欲の手段になりさがることが少なくない。  そうなると何がどう変わるか。三大欲望は満たされるとおのずとそれ以上求めなくなり、おだやかな満ち足りた感じに変わる。ところが権力欲だけ満たされるほど渇く。そしてその手段になった他の欲望は楽しさ、満足感がみごとに消え失せる。・・・≫

 さて、この本には、阪神間の末席に住む者に興味深い「阪神間の文化と須賀敦子」という一文が入っています。この文は「須賀敦子全集第4巻」(河出書房新社)の解説に寄稿された文で、この文については、遠い昔に読んでいた須賀敦子を読み直してから、いずれ、また感想文を書こうと思います。

*「幼年時代」(カロッサ 斎藤 栄治訳 岩波文庫)
*「時のしずく」(中井久夫 みすず書房)
☆写真は、スイス クール

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