(承前)
スティーブンソンといえば「宝島」。
岩田欣三訳を読んでいないものの、以前、海ねこさんにも書いたように、ワイエス絵亀山龍樹訳というのが、個人的には最強の組み合わせです。
ワイエスの描く挿絵は、周囲の緊迫した空気までも感じられ、食うか食われるか、気迫に満ちた表情、指先、足先までも力が入っています。
そして、訳は、ごろつきたちの臨場感あふれるやりとり。たとえば、他訳では「しずかにしろ」とあるところを「ものども、だまれ」。「せがれがいる」は、「おれにもがきがひとりいる」などなど、悪ぶる言葉が次々と。
中でも、ジムがリンゴ樽の中で耳にするシルバーの会話。読んでいる者は、リンゴ樽に潜んでいるジムの耳になって、シルバーたちの会話に耳をすますのです。
≪「ふん、おれはな、場かずをふんでいるんだ。どのくれえ、わけえ、いせいのいいやつがおしおき場にぶらさがって、一ちょうあがりになったかを、この目でとっくりごらんになってきたと思うんだ?そういうはめになったなぁ、みんながせっかちで、あわててことをはこんだからなんだぞ。海のことなら、このシルバーさまは、ちったあごぞんじのつもりなんだ。わかったか、すっとぼけやろう。だまって、へまをやらかさず、おれのさしずどおりの針路をすすんでりゃ、馬車にふんぞりけえれるご身分にもなれらあ。そうともよ。ところが、おめえらのやることときちゃあ、すぐにもラムを一ぺえやって、あげくがしばり首だなぁ。」≫
内容は具体的で、説得力があります。さらに言葉に凄みを持たせることによって、有無を言わさず、説得(強制)しています。
それにしても、ラム酒だとか、フリント船長だとか、船長の肩近くに彫ってあった入れ墨(首つり台とそれにぶらさがっている男の絵)・・・どれも、これも、「ツバメ号とアマゾン号」を初めとするランサム・サーガでは、なじみのモチーフで、アーサー・ランサムも宝島ファンだったのがよくわかります。
*「宝島」(亀山龍樹・訳 講談社フォア文庫)(N.C.ワイエス画 学研)(中村徳三郎・訳 岩波文庫)
*「ツバメ号とアマゾン号」等(ランサム・サーガ)(アーサー・ランサム文絵 神宮輝夫訳 岩波少年文庫)
*「アーサー・ランサム全集」(アーサー・ランサム文絵 岩田欣三・神宮輝夫訳 岩波)