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片隅の人生

バリj
 「片隅の人生」(サマセット・モーム 天野隆司訳 ちくま文庫)
 サマセット・モームの長編です。「アントニー・ブラント伝」の次に読んだのは、偶然です。
 かつて、サマセット・モームを読んだとき、ほとんど気にならなかった同性愛者の視点が、よくわかるところがあり、先の「アントニー・ブラント」の同性愛者としての生き方と重なるのが、興味深かったです。
 両者、スパイという共通点があるものの、片や伝記、片や小説ということで、スパイという点については、先の視点のようにはわかりませんでした。(そんなに簡単に読み取られるようじゃ、スパイとはいえないものね)

 ただ、アントニー・ブラントは、女性を差別して見ていたような様子は、伝記ではわからなかったのに比べ、サマセット・モームは、この本の中で女性を悪者に仕立てているように思いました。
 ハンサムすぎる若い男性に、惹かれてしまった若い女性と年配の婦人の描き方には、手厳しいものがありました。

 それで、事件の中心になる若者フレッドには、「その美しい顔にちょっぴり硫酸でもたらしたどうかね。・・・いまのきみの顔ではどこへ行っても、危険人物になってしまうよ。」という言葉を投げます。
 彼がどんなに美しいかは、≪穏やかな光につつまれて、カーキ色のズボンと袖なしシャツ一枚の姿で、フレッドはすわっていた。帽子を脱いでいたから、黒いカールした髪の毛が現れている。その姿を眺めながら、彼がおどろくほどハンサムな青年であることに、医師は改めておどろいた。心に突き刺さるような美しさを感じさせられた。先刻まで頭のにぶい若者くらいに思っていたから、医師はフレッドに突然親しみの感情を感じた。それはたぶん彼の男ぶりに眼がくらんだためだろう。・・・・≫と表現されています。

 この最後の「男ぶり」という訳ですが、かつて、ディケンズ講読聴講の末席にいたとき、教授がhandsomeを一気に「男ぶり」と訳されて、思わず、ふーむ、ぴったりと思ったことがありました。ただし、このときは中年の紳士に充てていたと思います。この度は、原文を読んでいませんが、handosome をハンサムと訳すか、「男ぶり」と訳すかでずいぶん違います。(続く)

☆写真は、バリ島沖の虹(撮影:&Co.Ak) 「片隅の人生」の舞台は、旧オランダ領東インド諸島。つまり今のインドネシア辺り。バリ島は、インドネシアです。

*「アントニー・ブラント伝」(ミランダ・カーター 桑子利男訳 中央公論社)

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