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長編小説部門 

別邸6j
 (承前) 「ベラミ上下」(モーパッサン 杉 捷夫訳 岩波文庫) 
  ベラミというタイトルからして甘ったるいじゃありませんか。美貌の友・・・イケメンの彼ってことでしょう?(そんな風に訳す人は間違っても居ませんが・・・)

 まあ、次々と忙しいこと、色恋になると、急にまめになるのが、可笑しい。
 文庫表紙の紹介文には、≪「ベラミ」と名付けられた色事師は旧友の妻を捨て財を横領、新聞社社長の妻を騙し娘と結婚、政界へ―――悪の栄華の結末は、連載後パリの新聞界を騒然とさせた。≫

 とありますが、事態はそんなに深刻というより、むしろ滑稽であり、哀しい人間喜劇です。とにかく、よくまあ、こんなにまめに色ごとに励むこと。慾の深いこと深いこと。立身出世だけが人の幸せと思う哀しさ。通俗小説とされるくらいですが・・・その描写はていねいで細かく、小説を読ませる力を持っています。
 
 若い夫人を迎えるために、ベラミのしたことは・・・
≪その場所のみすぼらしさをできるだけかくすために、自分の部屋をどう片づけたものか考えてみた。彼は壁に小さな日本の細工物をいろいろピンでとめることを考えついた。五フラン出して縮緬の布と、小さな扇面と小さな団扇をひと山買って来て、それで、壁紙の上の目立ちすぎるしみをかくした。窓ガラスの上には、河の上に浮かぶ舟だとか、真っ赤な夕焼け空を飛ぶ鳥の群だとか、露台に遊ぶ色とりどりの衣装の貴婦人だとか、雪の積った野原を行く黒装束の小柄の人物の行列だといったようなものを現わしている透かし絵をはりつけた。
 寝るのと坐るのがやっとである狭い彼の部屋は、たちまち絵を描いた提灯の内側よろしくといった格好になった。彼はその効果を満足なものに思い、その晩は残った色紙で鳥の形を切り抜いて天井に貼るのに余念がなかった。≫
 ・・・と、日本礼賛かと思いきや、よくよく読めば、かるーく、当時の日本趣味をいなしています。安っぽくても、ファッショナブルに見える細工だったのですね。(続く)
☆写真は、初冬に咲く皇帝ダリア

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