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みんなみすべくきたすべく

翻訳は無上の精読

鍵j
 「大人に贈る子どもの文学」(猪熊葉子 岩波書店)
(承前)
 さて、猪熊葉子の翻訳考はまだ続きます。
≪翻訳者は、その世界に入り込み、子どもの登場人物だけに目を向けるのではなくて、大人の登場人物たちを見ることなく素通りしてはなりません。そうしなければ作品の構造が明らかに見えてこないでしょう。これが堀口*のいう「翻訳は無上の精読」の結果という意味でしょう。精読というと、一見ただ言語上の問題であるかのように理解されるかもしれず、誤訳がなければよいと思われるかもしれませんが、実は作品自体の構造分析を含んでいることを知っていなくてはならないと思います。そしてその上、翻訳者には自国の言葉を自在に正確に使う能力と、訳そうと試みる作品の要求する的確な言葉を選んで使える能力が必要です。このような難しさを達成できたなら、はじめて読者を強い力で作品のなかに引き込む翻訳が誕生するのでしょう。優れた翻訳がしばしば創作であると評されるのは、そういうときなのではないでしょうか。≫

 そうでした。この高い意識に裏付けされた猪熊葉子訳で、ゴッデンもピアスもノートンもボストンもエイケンもネスビットも・・・・・そして、サトクリフ!にも出会ったのでした。

 カ・リ・リ・ロにとって、岩波から出ている猪熊葉子訳のサトクリフの歴史小説「第九軍団のワシ」「ともしびをかかげて」「太陽の戦士」「王のしるし」そして、「運命の騎士」!の5冊**に出会ったことは、それまでの読書体験をひっくり返すくらいの勢いで、心に響いたのを思い出します。

 確かに、ピーター・ラビットやプーに会いたくて、あるいは、真夜中の庭やハヤ号、グリーンノウに触れたくて、そしてまた、ファージョンの世界をたどりたくて、何度も、英国に足を運びました。
 が、一番底にあったのは、猪熊葉子訳で出会うことのできたローズマリー・サトクリフの描くブリテンの風を感じたかったと、今にして、思うのです。

*堀口大學
**のちに、「銀の枝」と「辺境のオオカミ」が加わりました。
☆写真は、サトクリフ「ケルトの白馬」のホワイトホースカントリーにあった塀の鍵

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