
(承前)
「大仙厓展」(~2016年11月3日:出光美術館)の何が、面白かったかというと、画に添えて書かれている画賛でした。
ただの言葉遊びでなく、奥が深いのが、禅画ということなのですね。
こんな絵が、並んでありました。「頭骨画賛」と「葦画賛」。前者は、骸骨の目鼻口から葦が生えています。後者は、葦が生えている中を水が流れています。
葦という草は、「よし」とも「あし」とも読みますが、そこを画賛しています。
前者には≪よしあしハ 目口鼻から 出るものか≫
後者には≪よしあしの 中を 流れて 清水哉≫
他にもたくさん可笑しいのがありますが、最後の方に並んでいた「老人六歌仙画賛」は、今まで見た色んな六歌仙の中でも、一番楽しい。今も変わらぬ高齢者の実態ではありますが、絵は大らかで優しい。
≪志わかほくろが出来る 腰まかる(か)頭はけるひけ白くなる 手ハ振ふあしハよろつく 歯ハ抜ける耳ハきこへす 目ハうとくなる 身に添ふハ頭巾襟まき 杖へ目鏡たんぽ おん志やく志ゆひん孫の手 聞たかる死とむなかる 淋しかる心か曲る欲深ふなる くとくとなる氣短かになる 愚癡になる 出志やはりたかる 世話やきたかる 又しても同し咄に子を譽る 達者自まんに 人ハいやかる≫(続く)
(承前)
東京 出光美術館50周年記念「伴大納言絵巻展」のときから、秋は「大仙厓展」(~2016年11月3日)だと、思っていたものの、時間に追われ、気が付いたときには、もはや、行けそうもない・・・で、無理やりに、東京遠征したというのが実情です。
面白かったぁ。
美術鑑賞ですから、面白かったという感想は外れているのかもしれません。
仙厓の、というか、禅の世界のしゃれっ気(と、いっていいのか?)を、堪能できた時間でした。
今までに何点かの仙厓の作品を見てきました。この東京出光美術館でも、京都細見美術館、龍安寺、はては、古筆の先生の床の間にでも、仙厓に出会ってきました。その優しい画風。丸っこい画風。ユーモアあふれる画面に惹かれてきました。それにしても、たくさん描いたようで、他、東京永青文庫でも「仙厓ワールド」というのが開かれています。(~2016年1月29日)
今では、その名を知るきっかけとなった本の作家の政治的言動が、左方向ではないのが気になるものの、そんなこと、仙厓を見るには、些末なことだと教えてくれます。(続く)
☆写真は、「指月布袋画賛」この画賛は≪を月様 幾ツ 十三七ツ≫と子守歌の一節。指さす先には月が描かれていないものの、月は「悟り」の象徴であり、指は「経典」を表し、経典も重要であるが、悟りはそのような学習だけでは手に入らないものであり、厳しい座禅修業が重要であると教えている。(「大仙厓展図録」解説より)
(承前)
「速水御舟の全貌展――日本画の破壊と創造――」(~2016年12月4日)に行ったのは、「炎舞」が見たかったからです。
今まで、写真などで見てきたし、WEBでも見ることができます。
が、しかし、この絵は、絵葉書を買う気になれませんでした。
実物は、印刷物と似て非なるものでした(というのは言い過ぎですが)。
炎とその煙、そんなもの絵になるなんて、信じられないような気持ちで、絵の前にしばらく立って居ました。
炎の絵は、過日の伴大納言絵巻でも見ることができました。が、しかし、煙が煙の質感を伴って、絵になっているのです。
・・・と、ここで、いくら、拙い言葉を連ねても、あの煙の煙としての存在感を伝えることはできません。
実物だけが持つ魔法。
やっぱり行っておこうと、速水御舟と仙厓を見にいきました。
まず、東京 山種美術館。
日本画美術館50周年を記念した特別展「速水御舟の全貌展――日本画の破壊と創造――」(~2016年12月4日)。
以前、「名樹 散椿」を見に行ったときは、モデルとなった生きた椿の美しさ が忘れられず、どうしてもその絵画が、より魅力のあるものとは思えませんでした。しかも、狭い部屋に陳列していたその絵は、離れて見ることもできず、その華やかさが半減しているような気がしていました。
今回は、その「散椿」が広いところに陳列され、その華麗さが際立ち、その構図と共に、魅力的な絵画でした。が、横で鑑賞している人に、つい言いたくなるのです。京都地蔵院の椿は、それはそれは美しいのですよ、と。もちろん、よけいなお世話なので、言ってませんよ。
この画家の描く、花や木の絵は、見る方も優しい気持ちになります。桃も桜も梅も・・・春の暖かい空気を感じます。
また、以前、箱根の岡田美術館で見た「木蓮 (春園麗華)」も並んでいて、その佇まいにまた心魅かれました。(前期のみ展示)
速水御舟と比べるのはおかしいものの、個人的に、カ・リ・リ・ロのカメラ親父は晩年、趣味の日本画親父にもなっていて、速水御舟の牡丹の絵を見た時には、父が描いていた(練習していた?)牡丹の絵を思い出しました。(続く)

4月末に生まれた孫が、バギーに乗って散歩するというので、ついていきました。
近くに、いい散歩道があります。
桜の時は、花見客でごった返す桜並木も、今は、静かです。
風がそよぎ、木漏れ日がまぶしく、桜の葉がはらり、ひらり。
見えるもの、聞こえるもの、感じるもの、すべてを吸収するかのように、じっと前を見つめ、
時には、静かに上を見る彼女。
なんでも、初めて。
なにもかも、新鮮。
当たり前の、木々の梢。
もはや哲学する彼女。
(承前)
「子育て日本史ー日本人の品性・美意識の源流をたどる」(日本人の育ての知恵」改題:樋口清之 PHP文庫))という文庫本で、もう一つ。
≪人間と人間との間の、潤滑油的な調和を取る方法としてあるのが、まず挨拶であり、エチケットであり、それはやがて道徳へと発展していく≫
これで思い出すのが、以前の家でのこと。
以前の家の前は、滅多に人も通らないところで、しかも、もう人の顔も見分けられない時間。何故か、ご近所の人と立ち話をしていました。
そんなとlき、坂の下からこちらに上がってくる人影・・・ん?男性のようです。
・・・肩に力が入ったちょうどそのとき、「こんばんは」とあいさつする、少々やんちゃ傾向の高校生男子。
その一言は、「怪しい者ではありません。」と証明しました。
挨拶一つで済むことでした。
☆写真は、スイス8月に色づいていたカエデの類
「子育て日本史ー日本人の品性・美意識の源流をたどる」(日本人の育ての知恵」改題:樋口清之 PHP文庫))という文庫本を読みました。
イラストもついていて、読みやすい。著者の女性観にちょっと引っかかるところがあるものの、日本人の知恵や言葉について、楽しく読むことができました。
日本語が言霊といわれる所以を、相手を祝福する言葉「おめでとうございます」「お元気ですね」を例に引き、この言葉の思想が人間を尊敬する方法として敬語に結びついたといいます。そして続けて
≪・・・ことばは、意志さえ伝えればいいのではなくて、意志を伝える以外にもう一つ意味がある。それはことばづかい、ことばの作法である。これは結局、私たちお互いを幸せにするものだと、日本人は考えてきた。ことばには、神霊すなわち神の霊魂がこもっている。こういう神霊感をもって、ことばを用いてきたのが日本人なのである。だから、いやしいことば、みだらなことば、悪いことばは語ってはならない。相手を傷つけ不幸にするからだ。・・・≫
そうかぁ・・・相手を祝福する言葉ね・・・・
今更ながら、振り返って考えました。(続く)
年々、金木犀の咲くのが遅くなって、ついに、今年は、もはや10月下旬。散り始めているのもあるから、時期も短い・・・とはいえ、この香りなくして、秋の気分になりません。
花水木の実と紅葉は、同時になって、結構明るい街路樹に。

一気に秋になっていきますね。
≪秋来ぬと合点させたる嚔(くさめ)かな≫(与謝蕪村 句集 落日庵 新選)
よかったぁ・・・確かに、いいドキュメンタリー映画を観たのです。
後ろで流れるピアノの名曲。
穏やかに微笑み、語るシーモアさん。
映画を観るまで、50歳で、演奏家の道から指導者、作曲家の道に進んだシーモア・バーンスタインという人のことを知りませんでした。と言っても、他の演奏家のこともほとんど知りません。どのピアニストが、うまいとか、技巧がどうとか、凄いとか、なんにもわかりません。が、当時87歳のシーモアさんの、スタインウェイ・ホールでのコンサート・・・心に染み入る・・・いいなぁ
映画の中で、数々の大事な言葉を示してくれたので、今ここに書こうとするのですが、(映画の公式HPなどにも出ていますから)文字にしてしまうと、違うような気がして・・・書けません。
たとえ、映像であっても、シーモアさんの温かい息遣いを感じなければ、あの珠玉の人生訓は伝わらないことに気づきました。
ただ、龍安寺の蹲踞(つくばい)にある「吾唯知足」(吾 唯 足るを 知る)と同じ空気が流れていました。
SEYMOUR BERNSTEIN さんのスペルです。WEBには、その素敵な笑顔とそのピアノ曲が聴けるページがあります。
☆写真は、スイス ギースバッハホテルの廊下の隅に置いてあったヴァージナル。
久しぶりに京都、泉屋博古館(→→)に行きました。
企画展「はなやかな秋のしつらえー邸宅を飾った近代美術とテーブルウェア」(~2016年10月23日) 住友家に伝わった明治以降の近代絵画と工芸作品の展示でした。
数少ない展示品ですが、明治のお金持ちの持ち物は、華やかさを伴い、しかも、超絶技巧の流れもあって、楽しいものでした。
天気が良いので、そのあと、東山に沿って岡崎散歩をしました。
前は、銀閣寺から哲学の道、そして、永観堂のところにでてきましたが、今回は、鹿ケ谷通りを南下して、永観堂に。紅葉には少し早いものの、見頃の時は、ごった返しているでしょうから、これでよしとします。
さて、疏水沿いをあるきながら、無鄰菴を抜けると、案の定、栗きんとん が、呼んでいました。
☆写真上は、泉屋博古館前庭。下は、永観堂敷地内の永観堂幼稚園。外国の人は、まさか、ここが幼稚園とは思わず、写真をぱちりぱちり。カ・リ・リ・ロもつられて、パチリ。 
(承前)
実は、「旅をする木」(星野道夫 文春文庫)を薦めてくださったのは、その中に「サリーのこけももつみ」(ロバート・マックロスキー作 石井桃子訳 岩波」のことが書いてあったからでした。
スイスに行く度に、ブルーベリー摘みに心奪われているカ・リ・リ・ロは、以前「サリーのこけももつみ」(マックロスキー作 石井桃子訳 岩波)のことも、ここに書いたことがあるからでしょう。(⇒⇒⇒)
さて、「旅をする木」の中の「北国の秋」という文です。
アラスカでは、季節の挨拶であるように「ブルーベリーの実、今年はどう?」といい、この時期ブルーベリーの実を摘みに行く人には「クマと頭を鉢合わせするなよ!」と、冗談ではなく、よく言うらしいのです。
≪ ・・・・何故なら、クマも人も、ブルーベリーを食べるのに夢中になって動いていて、頭を上げる余裕などなくなってしまうのです。ぼくも時々そのことにふっと気付き、注意深くあたりを見回したことがあります。そんなとき、「サリーのこけももつみ」という絵本を思い出します。・・・・・≫
☆写真は、ペーパーバック時代の「たくさんのふしぎ」(福音館)
右上「アラスカ探検記」(星野道夫 文・写真 1986年通巻20号)左下「クマよ」(星野道夫 文・写真 1998年156号)
偶然というのも縁なのでしょう。
先の訃報の少し前、星野道夫の「旅をする木」(文春文庫)を勧めてくださった方いて、(ああ、この方も彼女とつながっています)読んでいました。
かつて、福音館「母の友」に、生前の写真家星野道夫の写真・文章が掲載・連載されているときがあって、よく目にしていましたので、この文庫本も、その頃の文をまとめたものだろうと思い、勧めていただくまで、パスしていた本でした。
確かに、「母の友」に連載されていた文(1993~1995)を加筆したものが半分以上ありましたが、久しぶりに読み返すのも楽しいことでした。
その中の「生まれもった川」に登場するビルとのエピソード、その最後の一文は、記憶に残っていました。
≪世界が明日終わりになろうとも、私は今日リンゴの木を植える・・・ビルの存在は、人生を肯定してゆこうという意味をいつもぼくに問いかけてくる。≫
世界が明日終わるという可能性、自分が今日できることの重要性。
急逝した人達から、多くのことを教えてもらいます。(続く)
☆写真は、ペーパーバック時代の「たくさんのふしぎ」(福音館)
右上「アラスカ探検記」(星野道夫 文・写真 1986年通巻20号)左下「クマよ」(星野道夫 文・写真 1998年156号)
私より1歳年下の彼女からメールをもらったのは9月18日のことでした。
ここ数年は、毎年のように、イギリスなどに児童文学探訪に出かけていた彼女は、5月頃、渡英し、かのマーメード・インの絵葉書をくださっていました。それで、その時の話などをお聞きしようと、もう一人の友人と日程を調整するも、なかなか合わず、「・・・そんなわけで、10月半ばになりそうです。」というメールをいただいたのが、最後になりました。
そのときの添付写真が、上の写真で、彼女のキャプションには、≪「運命の騎士」でベービスが徹夜で祈りをささげた教会です。≫とあります。
そしてまた、7月に交換したメールには、「本当にイギリス旅行は楽しくて今も密かに反芻して味わっております。夢が一つかないました。」とあります。その時の添付写真が下のものです。彼女のキャプションには、≪ミルン一家が住んでいたお家のクリストファー・ロビンです。≫とありました。
信じられません。
こんな形で10月半ばにお会いするなんて。合掌。
☆写真撮影:&Co.Yoko
「運命の騎士」(ローズマリ・サトクリフ キーピング絵 猪熊葉子訳 岩波)
「クマのプーさん」(A.A,ミルン シェパード絵 石井桃子訳 岩波)

講演なら、ここらで、「ご静聴ありがとうございました」というところですが、長々と書き綴ったときは、どう言うんだろうか?
・・・老眼も手伝って、かつてより、納得のいかない写真が増えましたが、その分、フィルム写真でなくなったのをいいことに、コンパクトデジカメは、およそ、いくらでも写真が撮れ、その中から、いいのを選ぶことができます。 小さな暗室まで作っていたカメラ親父の我が父親が生きていたら、なんというだろうか・・・と思ってみたり。
で、メールをくださった方や、直接お会いした方には、今回の旅先レポートのベストショットの写真はどれだと思う?と、お聞きしていました。ヒントは「9月中」。
嬉しいことに、10人中9人までが、同じ写真を指摘してくださいました。
☆写真は、レマン湖のよあけ。ブリエンツ湖のよあけは、こちら⇒