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柚子の話

      橙j
(承前)
 時間に余裕の無い春から、ぼちぼち読み進んだ「日本近代随筆選1~3」三冊でしたが、編者3人は、それぞれが一巻ずつ担当していました。最後の巻の担当は、長谷川郁夫でした。
 彼は。まだ、ここに書けていない「堀口大學 詩は一生の長い道」(河出書房新社)という大著の著者であることから、第三巻には、きっと、堀口大學も選ばれているだろうと予測しておりました。
 
 「柚子の話」がそれでした。
≪花壇のまんなかに柚子の木を植えてから五年になる。≫と、始まるこの一文は、詩人の文章というより、淡泊であっさりとしています。もしかしたら、ありがちな随筆のように見えるかもしれないものの、実は、深い。
 
 家族やベテランの植木屋の反対を押し切ってまで、何故、庭の真ん中に「柚子」を植えたのか。
 柚子が、堀口大學にとって、どんな意味を持つかが、淡々と描かれていきます。

 そして、読後。
 堀口大學の随筆の中で、何故、長谷川郁夫が、これを選んだのか・・・その背景が見えたような気がして、うるっと来てしまいました。
 
 そして、巻末。
 長谷川郁夫は、淡々と解説します。
 堀口大學のシンパの一人としては、それもまた、深い想いを感じます。

≪「柚子の木」の作者は詩人。十七歳で上京するまで、越後・長岡で祖母に育てられ、やがて外交官だった父の任地に赴き、メキシコ、スペイン、ブラジルとラテン語圏で青春の十数年を過ごした。戦後は神奈川県葉山町に住み、そこを終(つい)の梄(すみか)とした。それだけに、この一篇には懐郷の情が溢れている。柚子の香りに、祖母への追慕が抱まれて(つつまれて)いるようで、老境の詩人の温容が偲ばれる。≫(続く)

 「日本近代随筆選 1出会いの時」(千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編 岩波文庫)
 「日本近代随筆選 2大地の歌」(千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編 岩波文庫)
 「日本近代随筆選 3 思い出の扉」(千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編 岩波文庫)
☆写真は、京都 北野天満宮の柚子ではなく橙。左の枝は梅のつぼみ。

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