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みんなみすべくきたすべく

枇杷の花

       五月の薔薇13j
(承前)
 ご近所の薔薇の花の写真を、ここしばらく使っていますが、そろそろ薔薇の季節から紫陽花に・・・という時期に、季節外れな「枇杷の花」の文が、「日本近代随筆選 1出会いの時」(全三冊 千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編 岩波文庫)にありました。
 
 これは、永井荷風の随筆です。この書き出しのリズムに強く惹かれ、文字を追いました。
 ≪『顔を洗う水のつめたさが、一朝ごとに身に沁みて、いよいよつめたくなって来る頃である。昼過に何か少し取込んだ用でもしていると日の短くなったことが際立って思い知らされるころである。暦を見て俄にその年の残った日数をかぞえて見たりするころである。菊の花は既に萎れ山茶花も大方は散って、曇った日の夕方など、急に吹起る風の音がいかにも木枯らしく思われてくる頃である。梢に高く一つ二つ取り残された柿の実も乾きしなびて、霜に染まったその葉さえ大抵は落ちてしまうころである。百舌(もず)や鵯(ひよどり)の声、藪鶯(やぶうぐいす)の笹啼(ささなき)ももうめずらしくはない。この時節に枇杷の花が咲く。」≫
 
 枇杷の花の季節がいつなのか、知らない者も、こんな季節のことならわかります。
 そして、この後、枇杷の花の見栄えのしない様子が書かれ、家に一株の枇杷の木がある・・・と続きます。 

 永井荷風には「珊瑚集 仏蘭西近代抒情詩選」(岩波文庫)もあります。
 その訳詩のリズム、この随筆のリズム どちらも好みです。
 
 蛇足ながら、上記の引用は文頭のものですが、「頃」と「ころ」を使い分けているのも面白い。(続く)
 

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