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触覚について

五月の薔薇6j
(承前)
「日本近代随筆選 1出会いの時」(全三冊 千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編 岩波文庫)の中に、音楽家(作曲・箏曲家)の宮城道雄の「触覚について」という一文が載っています。
 ≪「私は、盲人であるので、ものの形を目で見るかわりに、手の感覚で探って見るわけである。」≫で、始まるこの文は、この人の生涯に吹いたと思われる大きな風や冷たい風を想像することができない、前向きで優しい「目」を持つ文章だと思います。

 ≪「私は、よく、春先になると、庭に下りていろいろの花とか、植木の葉とか、木の枝の曲がりぐあいや張りぐあい、また下草の芽生えの柔らかいのなどを、撫でてみることがある。それは私には、目明きの人が目で見るのと同じように、のどかで楽しい気持がするのである。そして時々庭を歩いてそれらを探っては、日増しに、いろいろの草木が伸びて行くのを知るわけである。庭石など手ざわりでどういう石かということもわかる。」≫

 この春の息吹を感じる指先の感性が、箏曲「春の海」につながり、花や葉に触れることと、箏に触れ表現することが、彼にとって、同じ線上にあったことがわかります。

 さて、今、カ・リ・リ・ロのそばで、小さな手を動かし、その手に触れるものを知ろうとしている新生児は、この文の最後と重なります。
≪「・・・・・私は手やからだに触れるものだけでも、楽しいものや怖いものがあるものだと思うと、非常に面白く感じられる。・・・」≫(続く)

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