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みんなみすべくきたすべく

ふたりの太公望の話

五月の薔薇9j
(承前 )
  さて、「モーパッサン短編集 Ⅲ」は戦争もの・怪奇もの(一部、都会ものも含む)だとありました。
 その三分の一を占める戦争ものは、以前読んだ「水車小屋攻撃他7篇」 (エミール・ゾラ 朝比奈弘治訳 岩波文庫)と並んで興味深く、重たく、深いテーマをしっかり伝えています。三冊のうちで一番心に残った作品が多かったかもしれません。ともかく、モーパッサンの結末は、あっと言わせたり、うーん、そうくるか、と、うなったり、というのが、魅力の一つでもあるので、特に戦争ものとなれば、絶句・・・というのも、多々ありました。

  「水車小屋攻撃」のときも長い引用をしましたが、田舎の素朴な風景、自然の美しさ大きさ・・・それらと人間の愚かさを対比させるのが、ゾラもモーパッサンもうまいのだと思います。ゾラ(1840-1902)モーパッサン(1850-1893)

 ゾラより少し若いモーパッサンは、ゾラの声かけで、「メダン夜話」という共著の作品集に参加します。≪反戦的な傾向を明白にしているとは言えないまでも、戦争の愚かさと惨めさを冷めた目で見ている点では共通している≫6篇が収録されている作品集のようで、ゾラは「水車小屋攻撃」モーパッサンは「脂肪の塊」を発表しているのです。(「脂肪の塊」解説:高山鉄男訳 岩波文庫 )
 
  戦争ものの短編「二人の友」は、釣り好きの二人のおじさんの話です。
≪・・・どうかすると、二人は口さえきかない日もあった。ときにはおしゃべりもした。が、ともかくも、趣味も似ていれば、ものの感じ方も同じだったので、何を言わなくても、二人の心はちゃんと通じていた。   春は朝の十時ごろ、若やいだ太陽が、水ともどもに流れる、あのかすかな陽炎(かげろう)を静かな河面にただよわせ、二人の太公望の背中に陽春のこころよい温気(うんき)をそそぎかける時分になると、モリゾーは、思い出したように、隣の男に声をかける。「どうです!いい気分ですなぁ」すると、ソヴァージュさんもあいづちをうつ。「これにかぎりますよ」ただそれだけで、二人はたがいに理解し、心を許し合うことができたのである。≫
こんな牧歌的で穏やかな文の結末、いや、展開自体も、心に残るものとなります。ちなみに、この話は、高山鉄男訳(岩波文庫)の「モーパッサン短編集」にも選ばれています。(続く)

「モーパッサン短編集 Ⅰ~Ⅲ」(青柳瑞穂:新潮文庫) 

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