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筆齢九十歳

北斎虎j
 辻惟雄「あそぶ神仏―江戸の宗教美術とアニミズム」 (ちくま学芸文庫)を読みました。
 以前、買って積んだままの「奇想の江戸挿絵」(集英社ヴィジュアル版)と同じ著書だと気付く前に、表紙のひょうきんな表情の虎の絵に惹かれ手にとりました。

 北斎の「雪中虎図」の一部です。この前、神戸市立博物館で見た虎とは(「南蛮美術企画展 美術セレクション animal編ー聖フランシスコ・ザヴィエル像公開とともにー」(~2015年8月30日)、一味も二味も違う虎です。

 この絵は、「画狂老人筆齢九十歳」と署名のある北斎亡くなる三か月前の作品です。
 辻惟雄は本文の中で、この絵をこう解釈しています。
≪深々と静まり返った夜の雪、鋭い爪を立てた虎が空中を遊泳するかのように音もなく画面をすり抜けて行こうとしている。眼は前を見つめ、妖しく輝いている。毛皮の模様も、胴や脚、尾も、波立つような曲線をつくり、そのうねりは虎というより蛇か龍を思わせる。このふしぎな雰囲気をもつ虎は、死を間近に控えた北斎の分身であるかのようである。≫

 北斎の奥の深さは、底知れず、まだまだ知らないことばかり。

 で、個人的には、この虎の絵の突き抜けた感が好きです。
 上方を見つめる眼は穏やかに光り、毛皮の曲線は、あくまでも優しく柔らかく、空中浮遊して、あちらを目指す。右足の一搔き、左のもう一搔き、口角のあがった虎。向うには待っているものがあるにちがいない・・・・もうすぐだ。・・・・きっと、死が近いなんて思いも寄らない。前へ前へ。

 2006年に神戸市立博物館「江戸の誘惑―ボストン美術館所蔵 肉筆浮世絵展」で見た、北斎最晩年の絵「李白観瀑図」の突き抜けた感にも驚きましたが、同じ「齢九十歳」と署名のある、二枚の絵が、我々に見せてくれるものの大きさを感じます。(続く)

☆写真は、「江戸の誘惑―ボストン美術館所蔵 肉筆浮世絵展」図録の「李白観瀑図」と
「あそぶ神仏―江戸の宗教美術とアニミズム」の表紙。

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