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みんなみすべくきたすべく

ご機嫌よう!

     ウィーンカフェj
(承前)
 というわけで、ホフマンの「大晦日の夜の冒険」 (前川道介訳 国書刊行会)を読みました。今度は、子どもに向けて書かれたものではないので、色仕掛けです。

 「影をなくした男」と同様に、今度は「鏡に自分の姿が映らない男」が描かれています。すぐ、何かと引き換えにしてしまう中でも、この男は、一番ありがちな設定です。ドイツに妻子を残してイタリアに外遊、開放的な恋の国イタリア、そこに表れる美女、昔恋した女性とオーバーラップ・・・

 ドイツ人の貞淑な奥さんは、夫エラスムス・シュピーゲルが出かけるときに、しっかり言うのです。
≪「あなた、お達者でね」と啜り泣きながら妻は言った。「家はしっかりまもっていきますから、いつもわたしのことを思って悪いことをなさらないでくださいね。それからよくなさることですが、居眠りしながら馬車の窓から頭を出して上等な旅行用の帽子を落とさないでくださいね」――エラスムスはそうするよと約束した。――≫

 ああ、それなのに、それなのに、弱いのよねぇ。駄目じゃないの!
 それとも、約束したのは、帽子を落とさないことだけだったのか・・・ともかく、引っかけられてしまうのです。
 そののち、事の真相が呑み込めた妻は、イタリアで起こったことを理解し、夫を気の毒に思うと言うものの、夫の映っていない鏡を見ていいます。

≪「今度だけは」と妻は続けた。「あなたの姿が鏡に映っていないのは、いいことなのですよ。いまのあなたは本当に間の抜けた顔をしていますからね。でも鏡像なしでは人々の嘲笑の種になり、妻子から尊敬される一人前の家長になれないことぐらい、ご自分でよく分かっておられるでしょう。・・(中略)・・・ですから、ちょっと世の中を見てきて、機会があったら悪魔から鏡像を奪い返してきてください。取り返せたら、心から歓迎しますわ。…(中略)・・・では、ご機嫌よう!エラスムス!」≫
 
 この話には、シャミッソーの「影をなくした男」で植物学者となり替わった、シュレミールがそのまんまの姿で登場していて、オマージュというより、「影をなくした男」の続編という感じがします。しかも、最後、しっかり者の妻にご機嫌よう!と追い出されたエラスムス・シュピーゲルは、≪影をなくしたシュレミールと出会い、2人は相棒となって、エラスムスが影を、シュレミールが鏡像を提供することに決めたが、事態は一向に変わらなかった。≫

 この最後のところ、「事態は一向に変わらなかった」という終わり方は、今まで読んだ数少ないドイツ文学の中で、印象的でした。ちょっとシニカルに笑えるユーモア・・・イギリス文学に多い形だとばかり思っていたからです。(続く)
*「影をなくした男」(シャミッソー 池内紀訳 岩波文庫)

☆写真は、ウィーン  美術史美術館カフェ

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