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みんなみすべくきたすべく

魔術師のおじ

ノートルダムbj
 同時期にたまたま、電車では、薄っぺらい「幼年時代」(カロッサ 斎藤 栄治訳 岩波文庫)、家では、単行本の「時のしずく」(中井久夫 みすず書房)を読みました。どちらの作家も医師です。
 時代や国を問わず、お医者さんの作家・文筆家が居るのは、彼らの観察眼の鋭さゆえですね。
 まずは、「幼年時代」。

 今、思い出せる日本の幼年期の自伝は、中勘助「銀の匙」(岩波文庫)石井桃子「幼ものがたり」(福音館)ですが、「幼年時代」の作者のカロッサ(1878~1956)はドイツの作家です。

 カロッサは、今も何冊か、文庫でも読めるものの、個人的には、他の作品を読んだわけではありません。複数の出版社から翻訳された全集がでているのを見ると、一時期は日本でもよく読まれた作家だったと思われます。
  
 「幼年時代」を読むと、その確かな筆力を感じます。
 子どもが興味津々のもの、怖いもの、そして、それらを捉える心の動き、幼年時代を少しずつ大きくなっていく姿が見えてきます。そして、読者は、子どもの頃のよく似た感触を思い出します。

 中でも、これって、もしかしたら、E.T.A.ホフマン(1776~1822)「クルミわり人形とネズミの王さま」のドロッセルマイヤーおじさんじゃないの!と思われる人がカロッサの親族に居たのが、とても面白い。・・・ゲオルゲ伯父さん。手紙の宛名の下には「組合代表者兼魔術師」!

 ホフマンのドロッセルマイヤーおじさんはフィクションで、カロッサの伯父さんは実在の人物です。幼いカロッサを、不思議な魔法の世界に誘った人。カロッサは、心酔し、伯父さん亡き後しばらく、その影響下にいるのです。

 カロッサはその幼い頃の記憶を、大人になった冷静な筆で書き残しました。
≪・・・家具が置き變えられてあって、部屋はいつもより大きく見えた。彼はテーブルの向こうに立っていた。その上には七つの蠟燭が燃えていて、いろいろの瓶や盃や小箱や骰子などが、暗く明るく輝いていた。黒いすかしのある紅いマントを着て、金の刺繍をした緋色の高い帽子をかぶった彼の様子は、まるで司祭のように見え、見まがうばかりおごそかであった。しかしなによりもさきより私の目にとまったものは、黒い杖であった。それは非常につよく私を惹きつけた。というのは、それはひどく簡素で、またなんの奇もなく見えたからである。椅子が一つ、ぽつんと部屋のまんなかに置いてあった。私は腰をかけろと言う無言の眼くばせを受けた。非常にかすかな音樂が、おそらく隠してあるオルゴルの鳴らす音樂が、響き始めた。伯父は、私に會釋するようにちょっと頭をさげると、冗談のように杖を持ちあげ、もう一度彼の小道具類を置き變えて、いよいよ彼は、次から次といろんな藝を小魔術でやって見せた。それらは、どんな普通の魔術興行にでも演ぜられるものとほとんど少しも變わったところがなかったのかもしれない、――――けれども、それは私を狂喜させた。・・・≫(続く)
*「幼年時代」(カロッサ 斎藤 栄治訳 岩波文庫)
*「くるみわり人形」(E.T.A.ホフマン ラルフ・マンハイム英語訳 渡辺茂男日本語訳 イラストレーション モーリス・センダック ほるぷ出版)
*「クルミわりとネズミの王さま」(ホフマン作 上田真而子訳 岩波少年文庫)
☆写真は、パリ ノートルダム大聖堂 内部

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