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黄金の壺

      ルーブルj
   「黄金の壺」 (ホフマン・神品芳夫訳 岩波文庫)
 妖しげな光を放つ小蛇ゼルペンティーナに恋する大学生アンゼルムスの話です。
純情な大学生という設定。失態のあと、彼が自分の苦難を嘆く場所が、エルベ川のほとり、人けのない塀から外に突き出している「にわとこ」の木陰の芝生でした。

≪「・・・・バターつきパンを落とすときはいつもバターのついたほうが下になる…新調の上着を着て外出するたびに、たちまち脂のしみをつける・・・妙なところに出ている釘にひっかけてのろわれた穴をつくってしまう・・・枢密顧問官殿や奥方に出会ってあいさつするときには、取った帽子がぼくの手からはなれて飛んで行ってしまう・・・つるつるの床に足を滑らせて、ぶざまにひっくり返ってしまう・・・市の立つ日にはいつもお店の壺をふみつぶしては弁償しなければならない・・・≫と、彼がやらかした失態はまだまだ続き、世を嘆いていると…..アンゼルムスに聞こえてきたのが、不思議なざわつき。クリスタルの鈴の発するい三和音のような響き。そこに、緑がかった黄金色に輝く小さな3匹の蛇。「これはにわとこのしげみにたわむれる夕日の仕業なんだ」と思うも、彼を見つめる魅惑的な濃い青い二つの瞳・・・で、彼は恋に落ちるわけです。

≪にわとこのしげみは身をゆさぶりながら言った――「あなたはわたしの木陰に横たわり、わたしのかおりがあなたをつつんだ。それでもあなたにはわたしのことばがわからなかった。かおりはわたしのことばになりますよ。愛の炎がともされるのなら・・・そよぎはわたしのことばになりますよ。愛の炎がともされるのなら・・・あかりはわたしのことばになりますよ。愛の炎がともされるなら・・・」≫

 どこでもいそうな若者の失態は、身近でわかりやすくて現実的、にわとこのしげみ周辺の不思議な世界は幻想的。この対比のまま、この作品は進んでいき、その結果、不思議すぎるでしょう?だけど、あるかもしれないな・・・と読者を引き込んで行きます。この手法は、若き日の作品の「黄金の壺」から、「くるみわり人形とネズミの王さま」や「牡猫ムルの人生観」とつながります。(続く)
*「くるみわり人形」(E.T.A.ホフマン ラルフ・マンハイム英語訳 渡辺茂男日本語訳 イラストレーション モーリス・センダック ほるぷ出版)
*「クルミわりとネズミの王さま」(ホフマン作 上田真而子訳 岩波少年文庫)
*「牡猫ムルの人生観」(ホフマン作 秋山六郎兵衛訳 岩波文庫)
☆写真は、パリ ルーブル美術館

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