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石井桃子についての本三冊、その後(3)

               ドルトムントアップj
(承前)
 さて、「迷える夫人」にやっと、行きつきました。
 思えば、「石井桃子の言葉」(新潮社)で見つけたキャザーのページ。その中の「迷える夫人」の写真。
 
 美しく、理想化された夫人が、理想とは違い、一人の女性としてどう生きていたかを、彼女に憧れていた青年の目を通して描いた物語です。不貞とか不倫という言葉があてはまるものの、そのドロドロしたものを、青年ニールの目を通すことで、ソフトなものにしているのがわかります。もちろん、自然描写も豊かです。
 ≪沼地にのしかかっている断崖の下で、野バラの茂みを偶然見つけた。ちょうどほころび初めた、焔のように赤い蕾がついていた。すでに開いた花弁は、昼までには必ず消えてしまう運命(さだめ)の、燃えるようなバラ色に染まっていたーー日光と朝と露とで作られた染色だ。あまりに強烈な色なので、とうてい長つづきはできないのだ・・・どうしても、褪せてしまう運命なのだ。ちょうど恍惚境がそうであるように。ニールはナイフを取り出し、赤いとげがたくさんついている固い茎を切り始めた。    美しい夫人へ贈る花束としよう。「朝」の両頬からつみ取った花束を・・・やっと半分目がさめたばかりの、無上の美しさに何の防禦もほどこしていない、このバラを・・・夫人の寝室のフランス式窓のすぐ外に、この花束をおいてこよう。夫人が鎧戸を開けて光を中に入れる時、花束を見つけるだろう。≫
 と、青年の初々しくも熱い恋心なのですが、ニールが花束置こうと身をかがめたとき、聞こえてきたのは・・・・・

 私自身は、この「迷える夫人」より、最後の章で救われた「マイ・アントニーア」の方が面白かったです。また、佐藤宏子によるキャザー会読書リストの一番初めに取り上げられているのも、「マイ・アントニーア」ということで、この本から、石井桃子たちがウィラ・キャザーに取り組んでいったことがわかります。

 それから、私が読んだのは「厨川圭子訳」のものでした。他に桝田 隆宏訳(大阪教育図書)もあるようですが、私は、「ピーターパン」「ジェインのもうふ」「ふしぎなお人形」等、児童文学や絵本も訳した厨川圭子の若き日の仕事を読んだわけです。
 石井桃子も、村岡花子も、そして、この厨川圭子も北米文学から子どもの本の翻訳までも、手掛けた人たちでした。

*「ピーター・パン」(バリ作 ベッドフォード絵 厨川圭子訳 岩波少年文庫)
*「ピーター・パンとウェンディ」(バリ作 ベッドフォード絵 石井桃子訳 福音館古典シリーズ)
*「ジェインのもうふ」(アーサー・ミラー作 アル・パーカー絵 厨川圭子訳 偕成社)
*「ふしぎなお人形」(ルーマー・ゴッデン作 中谷千代子絵 厨川圭子訳 偕成社)

☆写真は、以前の家の蔓バラ、ドルトムント

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