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石井桃子についての本三冊 (その2)

プー棒投げj
(承前)
 「石井桃子のことば」 (新潮社)の中で百歳になったインタビューに応えて石井桃子は言います。
「子どものころに生活の中に埋め込まれた記憶は、その子が大きくなってからも、貴重なものとなることが多いのです。」

 さて、その言葉を科学的に論証しようとしたのが 『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか――「声を訳す」文体の秘密』(竹内美紀著 ミネルヴァ書房)です。

 この興味深いタイトルの本を友人に紹介してもらって調べていたら、4200円もする本で、こりゃ図書館に買ってもらわなきゃと思って、図書館で検索したら、すでにあった!(誰だろう?もはや買ってもらっていた人がいた!2014年4月20日初版発行)ミネルヴァ書房が出版社だったので、もしやと思っていたら、やはりこの本はいわゆる「学位論文」で児童文学の翻訳研究という新しい分野の成果発表の本でした。

 序章【声を訳す】で始まり、「クマのプーさん」(岩波)「岩波少年文庫シリーズ」「岩波子どもの本」「福音館世界傑作絵本シリーズ」「ちいさいおうち」(岩波)「たのしい川べ」(岩波)「おひとよしのりゅう」(学研)「幼年童話 こぎつねルーファス チムラビットシリーズ」(岩波・童心社)「ピーター・ラビットシリーズ」(福音館)「ファージョン」(岩波)「こすずめのぼうけん」(福音館)などと章を重ね、終章は【石井の翻訳文体の源泉としての「声の文化」の記憶】となっています。
 論文である以上、研究および執筆は大変だったとは思います。が、こんなに楽しい本たちやその周りの参考文献を、丁寧に読み返す作業が研究であったのは、素人には羨ましい限りです。 

 さて、昨日の「石井桃子のことば」巻頭に掲載されていますが、晩年の石井桃子は≪おとなになってから、あなたを支えてくれるのは、子ども時代の『あなた』です≫という言葉を繰り返し語ったといいます。

 そして、その言葉をひきながら、竹内美紀は、『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか――「声を訳す」文体の秘密』最終章で、≪文字を知る前の「声の文化」の記憶がとても大切であり、石井桃子に刻み込まれた「声の文化」が自伝の「幼ものがたり」を書かせ、プーの訳となり、同じく「声の文化」を継承していたアトリー、ポター、ファージョンといった作家の作品の翻訳とつながり、また昔話を聞くことで育まれた石井の「生きた言葉」が子どもたちに向かって「語る訳」を生みだすこととなった。そして、石井の翻訳が「声の文化」に生きている子どもたちをひきつけるのは、石井が自分の心の中にある「声の文化」の記憶を大切にし、翻訳する際にはその記憶の部屋に立ち戻って、「声の文化」の住人として語っているからである。≫と結論付けています。

 さらに、もうひとつ、「石井桃子のことば」(新潮社)の中の「石井桃子 百歳のことば」に、こうありました。
「どうぞ、どのお母さんも、人から聞いた言葉ではなく、あなた自身の心の底から生まれた言葉で、子どもたちに話しかけてください。」
(「石井桃子についての本三冊 その3」に続く)

*「石井桃子のことば」(中川李枝子 松居直 松岡享子 若菜晃子ほか 新潮社)
*「幼ものがたり」(石井桃子著 吉井爽子絵 福音館)
☆写真は、英国 プー棒投げの橋(撮影:&Co.Ak.)

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