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みんなみすべくきたすべく

言葉の海に浮かんでいた

                           セントパトリック桜j
(承前)
 映画「あなたを抱きしめる日まで」の原作の序文は、映画で母親を演じたジュディ・デンチが書いています。

 そして、本文は、フェロミーナ本人やアンソニー(マイケル・ヘス)の周りや客観的事実からマーティン・シックススミスが書いています。
 その登場する人物には生存者の多いことや、アメリカの政治史に関係することもあって、説明部分も多く、ストーリー自体が、すっきりしているわけではありません。もちろん、フィクションではありませんから、想像力で読むという本でもありません。

 が、中にアイルランドの詩人イェーツの詩を、13歳のマイケル・ヘス (アンソニー・リー)が聴くところがあって、とても象徴的なエピソードとなっています。

「イニスフリーの湖島」です。
≪いざ立ちて行かん、イヌスフリーへ。
粘土と編み枝でもって小屋を建て
九畝の豆を植えて蜜蜂の巣を据え
蜂の羽音が騒がしき林間の空き地にただひとり住まう
さすれば、いくばくかの平穏が得られん。
平穏はゆっくりと滴り落つる、
朝のとばりから・・・・・・・・≫ (宇丹貴代美訳)

 彼は、その詩に、他ならぬ自分の姿を見出すのです。ちっぽけな存在、自己卑下、牢獄に見える人生から逃げ出して他の場所で平穏を見つけたいという願望。そして、その「イェーツ詩集」を借り、続く数週間に、ジョン・ダン、ロバート・フロスト、ボードレーヌ他の詩人を知り、≪いつしか彼の頭は金色の風景にあふれ、心は言葉の海に浮かんでいた。≫のです。

 言葉の海に浮かんだままで居るわけにいかなかったマイケル・ヘス(アンソニー・リー)の激動の一生でしたが、詩が、彼を支えるものとなったことには、間違いがありません。(続く)

*「あなたを抱きしめる日まで」(マーティン・シックススミス 宇丹貴代美訳 集英社文庫)
☆写真は、映画とも原作とも関係ない、オーストラリア メルボルン 聖パトリック カトリック教会。聖パトリックは、アイルランドの守護聖人。

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