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みんなみすべくきたすべく

さすらうもの

Jチッピンカムデン
(「アーモンドの木」から続き)
(承前)
 「なぞ物語」のあとがきを読んでいたら、デ・ラ・メア(1873~1956)が一番好きな詩を、訳者野上彰氏自身も好きで、折りに触れ、励まされるということを書いておられました。  

荒れくるうまぼろしの軍隊をひきつれて
おれはその指揮官だ。
火ともえる槍をかざし、
風の馬にまたがって
おれは荒野を流浪する

 さて、この詩の題名は?翻訳されているデ・ラ・メア自身の「孔雀のパイ」「妖精詩集」には、ありません。
 誰の作品でしょう?デ・ラ・メア初めての長編「ヘンリー・ブロッケン」 (1904)に見つけました。目次より前、巻頭に載せている、作者不詳「癲狂院のトム」≪—ANON. (Tom o' Bedlam)≫でした。主人公ヘンリー・ブロッケンが、書物の世界を放浪するというファンタジー作品の冒頭にふさわしいものです。

 閑話休題。ヘンリー・ブロッケンが、入り込んだ世界は、ジェイン・エアから始まり、シェイクスピア、ワーズワース、バニヤン、ポーやキーツ・・・・。ちょっと散漫な気もしますが、元の書物を読んだ人には後日譚のような雰囲気があり、ファンタジックな世界が各章ごとに楽しめます。

 さて、デ・ラ・メアお気に入りの作者不詳「癲狂院のトム」 は、かのエルガーの男声合唱曲“The Wanderer”(1932)として歌われていることも判明。ユーチューブ等で聴くと、秘めた力強さ、信念のようなものを感じる曲でした。(5行連詩すべてが“The Wanderer” の歌詞となっていると思われます。ちなみに上記、野上彰訳は、5行連詩“The Wanderer”の4番目です。)そして、デ・ラ・メアの詩集「孔雀のパイ」にも「さすらうものたち(The Wanderers)」という詩があって、“さすらうもの(The Wanderer)”とイメージが似ているのも興味深いことです。

With a heart of furious fancies,
Whereof I am commander:
With a burning spear,
And a horse of air,
To the wilderness I wander.
                    (「清水をふつふつと」に続く)
*「ヘンリー・ブロッケン」(W・デ・ラ・メア 鈴木耀之介訳 国書刊行会 世界幻想文学大系36)
*「なぞ物語」(W.デ・ラ・メア 野上彰訳 フレア文庫)
*「孔雀のパイ 」(ウォルター・デ・ラ・メア詩 エドワード・アーディゾーニ絵 まさきるりこ訳 瑞雲舎)
*「妖精詩集」(ウォルター・デ・ラ・メア詩 荒俣 宏訳 ちくま文庫)

☆写真は、英国コッツウォルズ チッピンカムデン丘。

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