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モッコウバラ

    モッコウバラレンガ塀j
 「ことり」 (小川洋子 朝日新聞社出版)
 
 現代作家の小説は、あまり読みませんが、この作家は近隣在住でもあって、以前「ミーナの行進」を読んで、地元の様子が手に取るように書かれていたのが単純に嬉しいという動機で、読むようになりました。今回も、「ミーナの行進」(中央公論新社 2006年谷崎潤一郎賞)と同じような図書館の分館が出てきます。私には、この街の重厚な分館、ちょっと暗くてひやっとした分館が思い出されます。

 小鳥の小父さんと呼ばれた主人公が、幼稚園の小鳥の世話をし続け、耳を澄まし続けた話です。そして、小鳥の鳴き声の高音と対照をなすかのように、低く静かな存在感で彼を理解する少しの人が登場します。
 静かに淡々と進行していく人生やその内面の描き方は、この作家の得意とするところでしょう。そして、タイトルの「ことり」は「小鳥」と表すのではなく、ひらがなであるというところに、深い意味が凝縮されていると思います。

 この本は、図書館で予約し、50人以上待って、読んだ1冊ですが、たまたま、街にたくさん咲くモッコウバラの季節に読んだので、個人的に、より印象深かった箇所があります。
 が、個人的に印象に残った以下の箇所は、もしかしたら、この話の重要な部分なのかもしれないと、読了後、思ったりもします。
 この場に居合わせるのが、小父さんと図書館の司書の女性という設定も大事ですが、話のキーワードともなる「メジロ」の登場、もう一つのキーワードの「カナリア」の色、レモンイエローは、モッコウバラの黄色と重なる、そんな場面だからです。ちなみに本の見返し部分は、レモンイエローの装丁です。写真に写るモッコウバラと同じ色。
                  モッコウバラアップj1
≪モッコウバラは枝も見えないほどの勢いで盛り上がるようにして咲き、濃い黄色の塊を連ねて空にアーチを形作っていた。地面にはまだ一枚の花弁も落ちておらず、順番を待つ蕾が葉の間から無数にのぞいていた。・・・・「あ、メジロです」塀に沿って茂る樹木の間から、数羽小鳥が飛び立ち、長く続くチュルチュルというさえずりが聞こえてくるのと同時に、小父さんはつぶやいた。≫

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