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倫敦塔

471タワーブリッジオリンピックj
(「リチャード三世」から続き)
(承前)
 そういえば、ロンドン塔に幽閉された二人の王子の話は、ポール・ドラローシュやジョン・エヴァレット・ミレイの絵画に描かれています。
 
 夏目漱石は、「倫敦塔」*の中で、ドラローシュの絵画「ロンドン塔の二人の王子(Edward V and the Duke of York in the Tower)」から、彼らの最期のイメージを膨らませています。幽閉された王子たちのもとに暗殺者が忍び寄る場面です。漱石の詩的な日本語と、その絵画の悲壮感がぴったり合って、格調高いものに。
 ≪・・・兄は静かに書をふせて、かの小さき窓の方(かた)へ歩みよりて外(と)の面(も)を見ようとする。窓が高くて背が足りぬ。床几を持って来てその上につまだつ。百里をつつむ黒霧の奥にぼんやりと冬の日が写る。屠(ほふ)れる犬の生血にて染め抜いたようである。兄は「今日もまたこうして暮れるのか」と弟を顧みる。弟はただ「寒い」と答える。「命さえ助けてくるるなら伯父様に王の位を進ぜるものを」と兄が独り言のようにつぶやく。弟は「母様(ははさま)に逢いたい」とのみ云う。この時向うに掛っているタペストリに織り出してある女神の裸体像が風もないのに二三度ふわりふわりと動く。・・・ ≫
 
 ここで言う「伯父様」が、かのリチャード三世のことで、ドラローシュの絵では、部屋にいる犬が扉の方を見ていて、下の隙間から、暗殺者と思しき足の影が見えます。ただ、漱石のいう兄弟関係は、実際の絵と異なり、ベッドに腰掛け足にガーター勲章がついているのが兄で、本を持っているのが弟と思われます。
 
 漱石の「倫敦塔」には、このドラローシュのもう一枚の有名な絵画「レディ・ジェーン・グレイの処刑(The Execution of Lady Jane Grey)」のイメージを膨らませた個所もあります。(「九日間の女王さま」に続く)

*「倫敦塔・幻影の盾」 夏目漱石 新潮文庫など

**ジョン・エヴァレット・ミレイの「倫敦塔幽閉の王子たち(The Princes in the Tower)」は、2013年5月14日~7月7日まで、上野の東京芸大美術館で開催される「夏目漱石の美術世界展」に出展されるようです。巡回は、広島と静岡。

☆写真は、ロンドン塔を出てすぐ前にあるタワーブリッジ。オリンピックマークがついていても、空はイギリスらしい曇り空。漱石の頃も変わりなく。(撮影:&Co.H)

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