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みんなみすべくきたすべく

子どもの本でちょっとお散歩 (川その11)

101テムズ屋敷j
「ハヤ号セイ川をいく」
(フィリッパ・ピアス文 足沢良子訳 E.アーディゾーニ絵 講談社)

フィリッパ・ピアスの「ハヤ号セイ川をいく」に、こんな表現があります。
「・・・グレート=バーリーの家々が、見え始めた。いくつかの庭は、川に直接、面していて、川岸には、アイリスやつるばらがうえられているのだろう。たいてい、草はかりこんであり、あるところでは、しばふの一隅に、デッキ=チェアが一つ置いてあって、そのわきには、本が一冊、ひっくり返しに落ちていたりした。・・・」
このたった150文字程の文章で、イギリスの郊外の暮らしが伝わってきます。

  まず、「庭が、川に直接面していて・・」
家の裏庭の向こうが、「川」なんて、流れの急な日本じゃなかなかなか考えられませんが、日頃はどっちに流れているのかよくわからないようなイギリスの川では、よく見かける風景です。庶民の家でも、邸宅でも、家の裏が川に面しているなんて!邸宅だと艇庫があって、中にボートがつながれている。「アマゾン号とツバメ号」*のナンシーたちのおうちがそうでした。

 次に、「アイリスやつるばらが植えられて・・・」
そりゃ、イギリスと言えば、バラ、なのですが、アイリスも???確かに、美しく咲くアイリス。日本のアヤメ属が優美なイメージなら、イギリスのそれは、ずいぶん派手な色合いが多いような気がします。「グリーン・ノウシリーズ」*の作者ルーシー・ボストンは、作家だけでなく、バラの育苗家であり、パッチワークの達人でありするだけでなく、アイリスのコレクションでも、賞を受けたと、紹介されています。イギリスで庭作りに力を入れる人には、バラとアイリスが必須なのかもしれません。

 で、「草は刈りこんであり・・・」
そうなのです。芝刈りはお父さんの仕事なのです。以前、コッツウォルズのB&Bで泊った時、その宿の奥さんが「ごめんなさいね。朝から芝刈りしていて、うるさかったでしょう?」庭を見やると、お父さんが、芝刈り機で行ったり来たり・・・他の村の散歩をしていても、必ず、どこか、お父さん(おじいさん)が、行ったり来たり。日本の都市部の住宅地で、日曜は朝から、車を洗っているお父さんを見かけますが、同じ顔をしています。

 それから、「しばふの一隅に、デッキ=チェアが一つ置いてあって・・・」
空間があると、つい椅子や座る場所を確保したくなるのが、人間の習性なのでしょう。「よっこらしょ・・・」ところが、日本の戸外は、夏は炎天下、冬は底冷え、雨も多く虫も多い・・・ということで、多くの家庭では、なかなか戸外にデッキ=チェアというわけには行きません。

  最後に「・・・そのわきには、本が一冊、ひっくり返しに落ちていたりした。」
この文から、わかるのは、ついさっきまで、誰かが本を落としたのにも気づかず、デッキ=チェアで寝ていて、なにかの拍子で、目が覚め、慌てて室内に入った・・・光景でしょうか。それとも、すごくお行儀の悪い、さほど本好きではない住民が居るってことでしょうか。さては、謎解き、推理サスペンス風に進んでいくこの「ハヤ号セイ川をいく」ならではの表現でしょうか。

  こうやって、ありふれた日常をリアルに切り取ることによって、非日常の謎解きに迫っていくのだと思います。
面白くない推理小説か、面白いそれかは、電子辞書で単語をひくのと、分厚い辞書で余分なところまで見ながら単語をひく関係と、似ているような気がします。早く単語の意味が知りたい、つまり早く謎が解きたいものの、謎解きに直結しないように見える描写に、想像する楽しみを見出し、ページを繰って行く。

*「アマゾン号とツバメ号」シリーズ(アーサー・ランサム作 岩田欣三・神宮輝夫訳 岩波書店)
*「グリーン・ノウ」シリーズ(ルーシー・ボストン文 亀井俊介訳 ピーター・ボストン絵  評論社)

☆写真は、英国ヘンリー・オン・テムズのテムズ川に面した邸宅。

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