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みんなみすべくきたすべく

ヤナギに吹く風

16ウーズ川ロックj
(承前)「たのしい川べ」のことを書くために、ファイルを整理・検索していたら、まだ、母が生きていた頃、機内誌に載せる文を募集していた某航空会社に投稿した原稿が出てきました。以下、参加賞ももらえなかった長い駄文です。

『ヤナギに吹く風』
 父は,小さくなった声で,母にこう言いました。「孫たちと海外旅行に言ってこいよ。」
 父と母は,ヨーロッパ,アジアやハワイ,オーストラリア等,二人でよく出掛けていました。が,孫たちと一緒に行くという夢を果たせないまま,母は一人になりました。

 網膜剥離を患って以来,わずかな視力になった母は,あの震災以降の疲労から,肝硬変と高血圧,ひいては片目の視力を失い,バランスを崩すことによる腰痛,と数々の病歴の持ち主となりました。こんな母と,海外へ行く。足元に気を付けなければならない。食べ物に気を配らなければならない。疲労がたまってはいけない。暑い気候が苦手で泳げない。こんな母が満足する『旅』って何なのか? 孫に囲まれて幸せなおばあちゃん。見えなくとも感じられる景色と空気。一人で暮らす日々の緊張からの解放。

 そこで,考えついたのは,パック旅行でなく,私が何度か行ったことのある国,イギリスの田舎のホテルにゆっくり4泊,最後にロンドン1泊という旅でした。
 そして,受験生達は春を迎え,母の心も元気さを取り戻しつつあった5月の連休に,3人の子どもと母,夫と私の6人はイギリスに向かったのです。

 ヒースロー空港からタクシーで40分ほどの,そのホテルはテムズ川に面していました。
風が頬に心地よく,風に揺れるヤナギ,青々とした芝生,手入れされた花壇。戸外のテラスで飲むお茶の美味しさ。イギリスに多いどんよりした曇り空でなく,私たちを歓迎してくれた青空も続きました。
 朝は,散歩です。これは,私がイギリスに来たときの習慣です。ロンドンの街中でも,カントリーサイドでも,朝の清々しい空気の中,緑を散歩する幸せは,自分を生き返らせてくれるからです。孫たちと,テムズ川に沿って歩く。おしゃべりしながら歩く。杖をついている母の歩幅が元気です。小鳥の声が溢れます。白鳥が水に浮かんでいます。どこかで,牛が鳴きました。地元の人が犬の散歩です。「グッ,モーニン!」あれ,母も「グッ,モーニン」と言っています。

 朝の休憩が済むと,村の散策です。テムズ川も,朝と違って平底ボートが行き交っています。イギリスの祝日らしく,他の日より人出が多いようです。子どもが操作したり,子どもを肩車して片手で操作している人も居て楽しそうです。のんびり,ゆったり誰もがいい顔をしています。ロック(川の高低を調節する水門)に来ました。水位が変わるのを気長く待っている人達。みんなどこまで行くのでしょう?舟遊びの優雅な時が流れています。まぶしいばかりの5月の日差しに,肌を出している人も多く,私たちも軽い服装になりました。輝く緑に煉瓦作りの橋や小屋の赤色が,いいコントラストです。川からそれて小道を行くと,ひなびた教会が。誰かのメモリアルベンチに座って,「おなががすいたねぇ」

 昼ごはんは,村で唯一のティールーム兼雑貨屋兼食料品店の小さな店で,山盛りサラダに,ポテト&リークスープ(母のお気に入りになりました)。満腹になると,薬を飲むための水を買って,ホテルに戻ります。さあ,昼寝でもしましょう。
 夜は,ホテルのレストランでの食事。テムズ川がライトアップされ,ヤナギが揺れ,日本人は我々だけという非日常。早々と夕食を済ませ,部屋に帰る我々でしたが,続々と車が到着し,ドレスアップしたお客がやってきました。夜は,まだまだこれからなのです。 そして,最後の日は,村の親切な運転手さんの運転で,一路ロンドンへ。グリーンパークに近く,便利でこじんまりとしているけれど,ドアボーイがいるようなホテルでした。 朝は,もちろん,グリーンパークへの近道を通ってバッキンガム宮殿の門前へ。ゆっくり歩いて,ホテルに帰り『ラブリー!』な朝食をいただく優雅な時間。白いテーブルクロスにぴかぴかの銀食器,色とりどりのフルーツやジュース。「手作りです」と,胸をはってしめしてくれたおいしいマーマレード・・・・・。

 旅のおわりに,母は「この旅行は,観光地でなくイギリスの『田舎』に連れていってくれるというから,田んぼや畑,牛や馬,少々匂う田舎なのか,と,違う風景を思い描いていたんだけれど,小鳥のさえずり,心地よい風,移動に追われないゆったりした時間,おいしいごちそう。お父さんも,連れてきてあげたかったねぇ。」と,持ってきていた父の写真に語りかけたのでした。
☆写真は、6月のウーズ川 Houghton Lock

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