ハンス・フィッシャーの「こねこのぴっち」(岩波)については、以前にぬけぬけと、書きましたが、フィッシャーは、とても好きな絵本画家の一人です。
写真右、フィッシャーの「ブレーメンのおんがくたい」は、話のスピーディな展開と合って楽しさが倍増します。それは、フィッシャーの描く軽やかでリズミカルな線から生まれてくるものだと思います。糸が(線が)紡ぎ出されてくるという感じがします。
松居直は、「ハンス・フィッシャーの絵本覚書」という文の中で、この絵本のことを、こう言いました。**
≪さし絵をとおして聞こえてくる動物たちの声や音楽、泥棒と音楽隊のおおさわぎ、その間にある真夜中の静けさ。最後の上下に並んだベッドに眠る動物たちの画面は、なんと、みごとに物語の完結を語り、めでたしめでたしを絵で描いています。『さし絵は言葉の最も深い意味において、一種の視覚的なストーリーテリングです。』という、アメリカの絵本作家、マーシャ・ブラウンの言葉が納得できるではありませんか。≫**
さて、グリム童話の中でも、「ブレーメンのおんがくたい」は、展開のわかりやすい話の一つで、たくさんの画家が、絵本にしていています。中には、ぬいぐるみのような動物たちが行進したり、泥棒たちがいい人そうだったり、シュールな画風とお話が合っていなかったり・・・と、色々、見受けられます。
とはいえ、写真左下は、グリムの昔話1に入っている「ブレーメンの音楽隊」フェリクス・ホフマンの挿絵で、写真左上のゲルダ・ミューラー「ブレーメンのおんがくたい」は、昨秋翻訳されました。
*「こねこのぴっち」 (おはなしとえ:ハンス・フィッシャー やく:石井桃子 岩波)
*「ブレーメンのおんがくたい」 (グリム童話 ハンス・フィッシャー絵 せたていじ訳 福音館)
**「ハンス・フィッシャーの世界」(小さな絵本美術館)
**「翻訳絵本と海外児童文学との出会い」(松居直著 シリーズ松居直の世界3 ミネルヴァ書房)
*「ブレーメンのおんがくたい」(ゲルダ・ミュラー作 ふしおみさを訳 BL出版)
*「グリムの昔話」(フェリクス・ホフマン編・画 大塚勇三訳 福音館)
「ハンス・フィッシャー―世界でもっとも美しい教科書」(真壁伍郎著 編集工房くま)には、フィッシャー自身の文も収録されています。
「学校の壁画について」という短い文です。
≪・・・絵を目にする若い人たちは、こうしたまがい物には敏感で、すぐにノーをいうか、拒絶反応を示します。画家が自分で体験しているものだけを、彼らも体験します。絵は巨大な姿を描いた、自信たっぷりな、複雑な構図のものなどではなく、慎ましやかな、それもはっきりした線で描かれたもので十分なことが多いのです。子どもたちにとっては、単純で、抽象的な絵が、より身近に感じられます。わたしたちおとなが先入観で思っている以上に、そうした絵の方が子どもたちの想像力をかき立てるのです。・・・≫(真壁伍郎訳)
確かに、フィッシャーの描く世界は、単純な線が自由自在に動き回り、どんどんつながって行くような楽しさがあります。色で誤魔化していない、フィッシャーの力量を感じます。
また、文末で、フィッシャーは言います。
≪校舎に絵を描く画家にとって、より素敵なことは、絵を描いているときに、子どもたちが感動しながら一緒に参加してくれることです。≫
美しい教科書といい、学校の壁画といい、大人だから、画家だからという上からの目線のないスイスの教育の姿勢を見るような気がします。
(つづく)
☆残念ながら、フィッシャーの壁画を目にしたことはありませんが、スイス Trunの小学校で、カリジェの壁画を見ました。(写真の上下とも)
この村はカリジェの村なので、他にも彼の壁画がたくさんあります。その写真は、古本海ねこさんにも掲載してもらいました。
「ハンス・フィッシャー―世界でもっとも美しい教科書」(真壁伍郎著 編集工房くま)は、銀座教文館で、「フィッシャー展」が開催された際に出版された冊子です。
中には、いかにして、美しいスイスの教科書が誕生したか、いかにして、フィッシャーが、教科書の挿絵に参画したについて書かれています。そして、そこには、一人の優れた教育者(チューリッヒ州の小学校の先生)アリス・フーゲルスホーファが存在したこと・・
また、巻末には、フィッシャーの講演録と、フィッシャー自身の「学校の壁画について」という翻訳文も掲載されています。カラーの参考図版もついています。
昨日、紹介した二年生用3冊と三年生用の教科書のほかに、フィッシャーは、カード式の教科書を一年生用に作っています。その題名が「にわのあかいばら」。これはスイスの人ならだれでも知っている民謡らしく、フィッシャー以前は、小学校三年生用教科書のタイトルが、「庭の赤いバラ」で挿絵がクライドルフ!(初版1923年)らしい。うーん。クライドルフにフィッシャーに、カリジェ!凄い、ラインナップ。
日本の国語の教科書のように、このお話は赤羽末吉、このお話は山脇百合子・・・というのじゃなくて、一冊丸ごと、その画家ですからねぇ。
そして、フィッシャー最後の教科書(三年生用)「水は流れる ここから あそこへ」の完成本は、フィッシャーの亡くなる二日前に、フーゲルスホーファから、彼に届きます。折り返し書かれたフーゲルスホーファへのお礼の手紙には、こう書いてありました。
「わたしたちの愛するもの、この教科書に、ゲーテのことばを添えましょう。
いまはもう、どんな苦労も必要もない! バラがあるのだから、ただ、咲くだけだ。」
(つづく)
*****この小さくとも宝の詰まった冊子を教文館のお土産に下さり、「にわのあかいばら」全文を手書きで書き写してくださった友人に感謝します。
(承前)
昨日の石井桃子「お子さまむけ」の文末は、こうです。
≪(スイス図書展を見て)・・・小さい時から、こういう色や形を見せられている子と、いない子と、ちがってくるのは当然だな、と思うと同時に、日本じゅうのお母さんにこういう展覧会を見るチャンスがあったらなぁ、しみじみ考えないわけにはいかなかった。≫
50年前のスイス図書展がどんなものだったのわかりませんが、スイスの子どもたちが使っていた教科書は手元にあります。「こねこのぴっち」の画家、ハンス・フィッシャーが挿絵を描いたものを4冊です。
優しい色調で描かれています。なかには、詩や、お話などが入っているようです。お話には、「赤ずきん」や「ヘンデルとグレーテル」、「ブレーメンのおんがくたい」など、日本人にもなじみ深いものもたくさん入っていて、ドイツ語を読めずとも、眺めていると優しい気もちになれます。多分、詩だと思われる作品にも、鳥や花のカットがついていて、こちらは、読めないのが残念。
また、教科書なので、後ろに、使った子のサインを書きいれる紙が張り付けているのもあります。綺麗な状態なので次の年度の子どもに渡していくのでしょう。大切に使わないと次に回せないから、子どもたちは丁寧に扱い、それで、いい状態で、日本の私の手元にきているのだと思われます。
教科書には、素敵な名前(題名)がついています。
(二年生用三冊)
「こけこっこー 三時だよ」(写真中央下赤い表紙)
「かっこう かっこうと 森でよぶ」(写真左上)
「風だよ 風だよ 天からの子どもさ」(写真右上)
(三年生用4冊中1冊:まだ見たことがありませんが、他三冊はアイロス・カリジェ!の挿絵らしい。)
「水は流れる ここから あそこへ」(写真左下)
これらの題名訳は「ハンス・フィッシャー―世界でもっとも美しい教科書」(真壁伍郎著 編集工房くま)に寄りました。(写真右下:青い表紙)
(続く)
孟母三遷の教えのよろしく、初めの子どもが生まれてから3番目の子どもが社会人になるまで、3度引っ越しました。今は、4件目。
その2番目の家は、線路沿いの家で二階建ての小さな古い借家でした。そこは、いわゆるドアではなく、襖で部屋が仕切ってありました。家が古いのと、子どもが小さいのとで、襖の紙は、どこも、ビリビリに破れていました。そんなとき、破れたところの上に貼ったのが、当時「子どもの館」(福音館)についていた(と思う)いろんな画家の一枚絵でした。パッチワークさながら、楽しい雰囲気だけは出ていたと思われます。
時を経て・・・・書店で手に取ったのが、ハンス・フィッシャーの「メルヘンビルダー」。
あるじゃないですか!うちの襖に貼っていた一枚絵。襖に貼られた絵を指差しながら、話をしてやった遠い昔が思いだされます。
「メルヘンビルダー」には、写真の「しあわせハンス」「赤ずきん」など、グリムのお話が9つ入っています。最後に野村泫氏の一枚絵の解説もついた大型絵本です。
*「フィッシャーが描いたグリムの昔話 メルヘンビルダー」 (ハンス・フィッシャー絵 佐々梨代子・野村泫訳 こぐま社)