みんなみすべくきたすべく

シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々

                263二階の窓j
(2012倫敦巴里⑥)
(承前)
 この本の中で、心に残るのが、シェイクスピア&カンパニー書店の住民の一人、元アル中で詩人のサイモンの話です。自分の詩には自信を持っていたものの、自分が正当に評価されるのは死後のことだと思い込んでいたサイモンでしたが、彼にアイルランドから文学の祭典で詩を披露するようにと、連絡が入るのです。

≪・・・・・「信じられない」サイモンは顔を輝かせた。「詩人の国じゃないか!アイルランドには一度も行ったことがないんだ。とても足を踏み入れる勇気がなかった。われわれイギリス人は辛抱強いアイルランドの人々にさんざんひどいことをしたからね。」≫
 上機嫌のあと、これほど晴れがましい席で朗読した経験のないサイモンに大きなプレッシャーが。ああ、アル中に逆戻りか・・・

 で、その日、フェスティバルのパンフレットを見て、他の3人の詩人は「みんな本を出している。有名な詩人だ。僕には何もない。」かと、思うと急に自信が湧きおこって「いや、僕には作品がある。」
 そして、朗読が始まります。深みのあるイギリス風のアクセントが言葉をもみほぐし、聴衆を引き込んでいき、最後の詩を読むと宣言すると、失望のざわめき。
 そして、シェイクスピア&カンパニー書店の前にある桜の木、出掛ける前に咲きかけていた桜の木のことを朗読します。 

≪かすかな樹の匂いを漂わせ
長い冬のあいだじゅう ぼくのドアの外で
田舎の娘がふたり 樹皮と褐色の着物をまとい
いまにも踊りだしそうに腕を掲げていた

あと一日で 一週間もしないで
娘たちは絢爛たる芸者になる
白とピンクの桜の花びらの扇をぱっと開く
ぼくがよそ見をしているすきに

まず三月の最後の風が吹く
するとぼくはふりむいて目をみはる
春の雪?
それとも彼女たちが
地面に扇を投げたのか≫

☆写真は、シェイクスピア&カンパニー書店の二階窓に描かれた絵と窓に映った桜の木。昨日の写真に、この窓も桜の木も、写っています。そして、これらの写真を写しているカ・リ・リ・ロのすぐ後ろにもう一本の桜が植わっていました。

蛇足:もし、ルイ・ヴィトンのハンドバッグに興味があるなら、本文最後から15ページあたりをお読みになるといいのではないかと思います。 

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シェイクスピア&カンパニー書店

          261シェイクスピア&カンパニー書店j
(2012倫敦巴里⑤)
 パリのホテルは、この英文書籍専門店・古書店のすぐ近く、セーヌ左岸5区、カルチェラタンでした。この書店のことは、 『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』 
(ジェレミー・マーサー 市川恵理訳 河出書房新社)で知りました。

 もともとは、作家たちのサロンのような存在であった有名書店の名を継ぎ、場所を移したシェイクスピア&カンパニー書店です。そして、ここに集まる個性的な人々の個性的なエピソードの数々で、この本は、成り立っています。毎日曜に朗読会を開き、窓からノートルダム寺院とセーヌを正面に見る、などと読むと、エレガントなパリのサロンを思い浮かべるかもしれませんが、そこは、まったく違って、エレガントとは程遠い。が、しかし、書名に「優しき日々」とあるように、心優しき個性派の集団とも言えます。

 2011年12月に亡くなったジョージというオーナーの個性とその熱意は、人を呼び、今も娘さんが受け継ぎながら、その場所にありました。ジョージを偲ぶ連続の催しとして、現在は、毎月曜に店の前に椅子を並べ、公開イベント(公開討論?)をしています。その日の、テーマは、多分「カフェ文化」についてだったと思います。うーん、マイク調節の「ワンツー ワンツー」しか、よくわからないのが、なさけない。

  狭い店内には、本が溢れ、決して綺麗とは言えない椅子が随所にありました。そこに根が生えたように坐り込んで、本を読む人。きしむ狭い階段を上ると、窓の外には、ノートルダム寺院の美しい姿。と、思ったら、窓辺に何か日本人には不明なおつまみと飲み物の瓶(多分、ワイン?)。数えきれないメモや手紙を張った、人一人が入り込めるだけのスペースにタイプライター(決してオブジェでなく、使っていいものだと思います)。それに、日本の押し入れの上段みたいなところには、子どもがくつろげるように絵本等が散らかっています。中庭ではないまん中の窓の屋根には、古びた玩具やフィギュア。どこをとっても、絵になりそうな、雑多な散らかり様。写真禁止でした。

  元オーナー、ジョージのモットーは、「見知らぬ人に冷たくするな。変装した天使かもしれないから。」であり、本や文章に関わる困った人々を救済する精神が、今もその書店には溢れていました。パリ滞在の5日間、夕食調達の折、何度か、のぞきに行きました。(続く)

☆写真は、パリ5区、シェイクスピア&カンパニー書店、店頭月曜午後7時~
下の写真は、書店隣の小さな公園から撮ったノートルダム寺院

                                  262バラのむこうのノートルダムj

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